第69章 偽り
「と、とにかくオマエ! 頼むから!
この状況をなんとかしてくれ!」
「天下のPGとは思えないふんわり具合のお願いっスね……」
オレは彼女がいるからって言えばそれこそ一刀両断だろうが、そんな事言った日には、女子が全員帰るなんて事態も有り得る。
……経験がないとも言わない。
そんな事になったら、笠松センパイはセンパイ達からそれこそボッコボコだろう。
という訳で、笠松センパイの色々を守り抜く為には、ガマンして最後までここに居る必要があるわけだ。
深ーいため息1つついて、スマートフォンに目をやると、メッセージを受信していた。
「あ、みわ」
その珍しい受信につい声をあげてしまう。
"先輩は、変わらずお元気でしたか?
私は合コンってした事がないから
よく分からないけど、
楽しんでいますか?
夕飯を楽しみにしながら
お留守番しているね(^-^)"
「ああああ、みわ可愛いいいい……」
玄関でちょこんと座って主人の帰りを待つ子犬を想像して、思わず悶えた。
ギラギラした欲望に晒されていたオレに最高の癒し効果だ。
帰りたい。
今すぐ帰りたい。
「神崎か? あいつ、元気してるか?」
「おかげさまで、オレ達皆元気っスよ!
たまには海常に……って、なかなかそうはいかないっスよね」
「また小堀とかと顔出すよ。
マクセさんから時々話だけは聞いたりしてるんだけどな」
なんと、久し振りなその名前。
「え、アイツ……じゃなくてあのヒト、センパイの大学ともなんか関係があるんスか?」
「ウチの大学ってよりも、なんか連盟関係で仕事してるっぽい。頼りになる人だよ、あの人は」
……まあきっと、バスケに関してはそうなんだろう。
でもオレはあの夜の事、許してはいない。
思い出しただけで怒りがふつふつと湧き上がってくる。
まさか、自分が怒りで我を忘れる事になるなんて思ってもみなかった。
二度はない。
次同じ事しやがったら、鼻の骨も歯も全部へし折ってやる。
「オイ黄瀬、頼むからその怖い顔のまま、戻らないでくれよ……」
センパイにそう言われ、慌てて営業スマイルを顔に宿した。