第15章 噂 ー前編ー
翌日から、通常練習が始まった。
黄瀬くんは安静が必要なため足を使う運動ができないからか、少しイライラしているようだった。
「笠松センパイ! オレもう全然大丈夫っス!」
何度か監督や先輩に噛み付くが、勿論取り合っては貰えない。
体育館の中の空気が少し悪かった。
私は相変わらず仕事が多いので、ずっと体育館に居ることはできなかったけど、黄瀬くん、大丈夫かな……。
今日は長めのミーティングがある。
ミーティングルームの準備もしなきゃ。
次は、各校の試合や練習映像の入った箱を、部室からミーティングルームに運ぶ作業。
重い……
こういう時、女というのは面倒臭い。
何往復もしなければ運べないのだ。
「あ、神崎サン、手伝うよ」
2軍の3年生だ。休憩中だろうか。
「時間大丈夫ですか? 助かります!」
何箱かを一緒に運んでもらうと、あっという間に作業は終わった。
「ありがとうございました、助かりました!」
ミーティングルームにふたりきりだと、バスケ部の人でもやっぱり緊張する。
「……神崎サンてさあ、本当に黄瀬と付き合ってんの?」
「あ、はい、一応……」
「もう黄瀬とセックスした?」
……え?
「な、なんでそんなこと……」
「その反応だとまだなんだ。アイツ、普段から屋上で誰彼構わずヤッてるから、やめた方がいいよって言っておいてあげようと思ってさあ」
「……」
「あ、ごめんね青くなっちゃった。知らなかった? アイツ、相当だよ。いざヤッてみて幻滅されたり、ヤリ捨てもしょっちゅうだから、気をつけな」
そんなの、知らない。
でも、付き合う前なら……もしかしたらそういう事もあったのかもしれない。
でも関係ない。
今だから。私が一緒にいるのは今の黄瀬くんだから……。
思いとは裏腹に、涙が溢れてきた。
なに、この感情。
「ゴメンネ、意地悪言うつもりはないんだけど。ただ、俺神崎サンのこと、気になってたから……」
突然、両肩を掴まれた。
「な、なんですか、離してください」
「黄瀬と別れて、俺と付き合わない?」
何を、言ってるの?
「お断りします。ごめんなさい」
振り払おうとするが、ビクともしない。
近づいてくる顔……怖い。この人、何しようとしてるの?
やめて。
その時……ミーティングルームのドアが開いた。