第68章 際会
時計を確認すると、既に日が変わってから随分と経っていた。
お風呂から上がると、涼太がドライヤーで髪を乾かしてくれる。
そのままベッドになだれ込んで……っていう展開になったらどうしようとドキドキしていたけど、これはどちらかというと一緒に暮らしていた時の感覚。
今年度に入ってから、身体を重ねる回数が目に見えて減ったと思う。
去年は、それこそ2人きりで会うたびに求められていたけれど……流石に、飽きるよね。
私に魅力がなくなった?
以前は、『毎日だってしたい』って言っていた筈だ。
たくさん求められるとそれはそれで困る癖に、こうして求められなくなると不安だなんて、なんて自分勝手なんだろう。
ドライヤーの風ですこし捲れたバスローブの胸元から覗く貧相な身体に、小さなため息を1つついた。
涼太は次から次へと私を誘導していく。
部屋の調光から設備の話まで、淀みなくスラスラ話す姿を見て、感じてしまった。
涼太……慣れてる。
それはそうだ。
涼太は私と違って女性経験が豊富なはず。
きっと、恋人同士でこういう所を利用するというのは、彼の中では日常茶飯事だったはずなんだ。
チリリと、胸の真ん中に不快感が走る。
身に覚えのあるその感覚に気付かないフリをして、布団に潜り込んだ。
涼太がライトの明度を落としてからベッドに入ってくる気配がする。
こんなに汚い自分が嫌だ。
人の過去を探るような事を考えるなんて……自分の過去を棚に上げて。
自分の、過去。
どうして今日会った男は私が昔住んでいたマンションを知っていたんだろう。
どこかで会った事があるんだろうか……
学校?
家?
お店?
……やっぱり、全く心当たりがない。
もし少しでも会った事がある人なら、なんとなくでも覚えてるんじゃないか。
「みわ、眉間にシワ」
薄暗い部屋の中、少しだけ敏感になった感覚が涼太の指の感触を捉えた。
「大丈夫? どっか痛い?」
その思い遣りが、心遣いが嬉しい。
「ううん、ちょっとだけ考えごと」
「……今日の男のこと?」
心配かけちゃいけないって、分かってるのに。
でも、私の中で膨れ上がる嫌な予感めいたものが、もう収まっているのは耐えられないというように口から滑りだしてくる。