第68章 際会
涼太の唇が、私の唇をそっと撫でる。
それだけなのに、身を捩るほどに感じてしまう。
「ん……ふ」
彼の温かい舌にねだられて、薄く唇を開けるとぬるりと熱が入り込んできた。
吸い込もうとした酸素ごと呑み込まれていく。
両手は私の頬に添えられたまま、味わうように唇が重ねられた。
スッと、こころに詰まっていたものが溶け落ちていく感覚。
「……落ち着いた?」
合間に聞かれたその問いに、すぐには答えられなくて。
「え……」
「怖かったでしょ。よく耐えたね。
オレを待ち切れずに出てっちゃったのは、よーく叱らなきゃいけないっスけど」
再び包んでくれた胸の中が温かくて、温かすぎて……張り詰めていたものがパンと音を立てて弾けた。
また、左手の痺れと共に涙が溢れてくる。
「……ごめ、なさい……また、泣いて……」
笑顔が好きって、言ってくれたのに。
でも……
「怖かった……」
「うん」
「どうしたらいいか、わからなくて……」
「うん……」
涼太に縋り付くようにしがみついて、暫く泣いてしまった。
ごめんなさい。
強くなるから。
ひとりでも生きていけるように、強く。
気付けば滝壺に叩きつける水のような音は聞こえなくなっていた。
洗い場で髪や身体を洗った後、涼太に導かれるままに2人でバスタブに浸かる。
身体を沈めた時に溢れ出たお湯が勿体なくて……何も使われずにひたすら流れ出ていくお湯たちを見つめていたら、また涼太に笑われた。
「なんかないかな」
涼太が壁についているボタンを押すと、浴槽の中が七色に光りだした。
「わ!?」
「あ、調光付きだった」
「キレイ……」
まるで、お湯自体の色が変わっていくようだ。
涼太に後ろから抱きしめられている格好のまま、ぼんやりと表情を変えていく水面に視線を漂わせていた。
赤、青、黄、緑、紫、水色、桃色……。
「あ、涼太」
「ん?」
「今ね、黄色になったから」
「面白い事言うっスね」
「あ、緑間さんになっちゃった。
……あ、次は紫原さん」
「……なんか、見られてるみたいだから、それやめない?」
2人でクスクスと笑うと振動が水面に響き、色のついた水の波紋が広がっていく。
それがなんだかとても神秘的に見えて、暫く目を奪われていた。