第68章 際会
「みわ、お風呂入って汗流そう」
荷物をソファに置いて一息つくと、涼太はさらりとそう言った。
確かに、エキナカダッシュのおかげで2人とも汗だくだ。
「あ、うん。涼太、先に入っていいよ」
すぐに返事がないので振り返ると、彼は入り口のドアに体重を預け、微笑んで手を差し伸べている。
「おいで」
その声が優しくて甘くて、蜂蜜のような、まるでふかふかのパンケーキにかけるシロップのような甘さで私を支配しようと向かってくる。
気付いたらその甘さに引き寄せられて、ふらふらとその大きな手を取ってしまった。
「えっ」
連れて行かれたバスルームは、私が知っているホテルのバスルームとは全く異なるもので。
2人でも余裕の大きさの丸いバスタブ。
涼太が大きな蛇口のようなものを捻ると、太めの吐出口からお湯が大量に放出されだした。
インターハイの時などに泊まったような、シティホテルのユニットバスを想像していたから、目の前のまさかの光景に呆気にとられてしまう。
「これならお湯、すぐ溜まるっスね」
……えっと……。
「……みわ?」
「ごめんね、驚いちゃって」
ぽかんとアホ面を曝したまま、身体は涼太の胸の中に吸い込まれていく。
「可愛い、みわ」
「ちょ、ちょっ……」
触れた薄いTシャツの向こう側に、鍛えられた肉体を感じる。
Tシャツとジーンズだけでこんなに格好良い人がどれだけいるんだろうか。
「……もしかして、汗臭い?」
そう言って一瞬力が緩むのを感じたけれど、もう私に抵抗する力は残されていなかった。
目の前の逞しい肉体に、香り立つ涼太の匂いにすっかり侵されてしまっていた。
これじゃ、本当に言葉通り骨抜き。
バスタブにお湯が溜まっていく音を聞きながら、近づいてくる唇をそっと目を瞑って受け止めた。