第68章 際会
ラブホテル。
ええ、名前くらいは知っていますとも。
……名前くらいしか知りませんとも……。
……どうして、車のナンバーに板が被せられているんだろう?
そんな見た事のない光景を横目に、薄暗い入り口を涼太の背に隠れるようにして入った。
前方に、人がいる。
男性と女性、仲良く腕を組んで小さなテレビみたいな画面の前であれこれ話していて。
「先客っスね」
涼太はボソリと言うと、手前にある衝立で隠されたスペースに私を引っ張った。
「……なに、ここ?」
そこは、2人掛けのソファと小さなテレビが置いてある狭い空間。
「満室だったりした時に、待っていられる場所っスよ。足元開いてるから、さっきの2人がいなくなったら行こう」
確かに、衝立の下は開いており、先ほどの画面スペースが見えるようになっている。
ヒールの部分の革がめくれてしまっているパンプスを履いた女性の足と、スーツを着た男性の足。
会社帰りのデートなのかな……。
そんな不躾な事をつい考えてしまう。
2人が去っていくと、また涼太が私の手を引いて画面の前に出て行く。
画面から察するに、部屋番号・部屋の写真・金額が表示されているんだろう、これは。
「みわ、どこがいい?」
「えっ、安いところ」
とはいえ、1番安い部屋でも1万円近くする。
「じゃ、ここね」
涼太が画面のボタンを押すと、そのパネルの電気が消えてカチャリと何か金属のような音がした。
……というか、今!
1番安い部屋じゃないところ押した!!
「りょ、りょう」
涼太は人差し指を立ててそっと彼の唇に当てた。
その色気、本当に高校2年生のものじゃないから!
反論も出来ないまま部屋に入ると、まるで南の島のリゾートのような造りの部屋。
「わ……可愛い……」
想像していた"ラブホテル"とは全然違う。
まるで、2人で旅行に来たかのようだ。
部屋の隅には天蓋付きの大きなベッドが1つ。
……この、いかにも用意された感じに頬が熱くなった。