第68章 際会
「みわ、乗り換えん時走んなきゃ終電間に合わないかも」
そう言われて時間を確認すると、確かに乗り換えが間に合うのかが微妙……。
というか、涼太は絶対に間に合うと思うけど、私の遅い足がそれを邪魔しないか……それだけが心配。
「がんばる」
マネージャーだって、体力勝負でやっているんだから、選手に負けていられない!
と、謎の闘志を燃やした。
「階段……どこだったっけ」
次、乗り換えだ。
さっさと席を立ち、ショルダーバッグを握り締めてドアの目の前で走り出す準備をする。
「出て左っスかね」
ひだり…ひだり…
こんなに緊張して走るのは体育祭の徒競走以来かもしれない。
……体育祭でもロクに戦力になれない人間が言うことじゃないかしら……。
しかし、あと少しで次の駅に到着するというところで、電車は勢いを殺して止まってしまった。
『停止信号です』
信号……ああ、早く、早くして。
1秒が重要になる事態なのに。
「ぷっ」
その声が頭上から聞こえて、睨むように見上げると涼太が辛抱たまらんといった顔で笑いを堪えている。
「な、なんで笑ってるの!? こんなに真剣なのに!」
「だって……間に合わなかったら死ぬくらいの緊迫感だから、おかしくて……」
クスクスと肩を揺らすたびに、シンクロしたかの様に揺れる短髪の毛先が憎らしい。
「そんな事言ってたら、涼太なんて置いてっちゃうんだから!」
100パーセント強がりなんだけど……。
「了解。頑張って走るっス」
笑いを噛み殺したようなその声が少しだけ緊張を和らげているというのがまた憎らしい。
いつも涼太のペース……。
でも、それが嬉しかったりするんだから、重症?
……それにしても……
「……ね、動き出さないんだけど……」
どうしたの信号機。
さっきから全く動き出さない。
「あれ、動かねぇスね」
「え、ちょっと急いで、急いでよ」
『お客様にお知らせいたします』
うわ。
これ、嫌な予感しかしないやつじゃ……。
『ただいまー次の停車駅で非常停止ボタンが押された関係でー、現在安全確認を行っており、この電車は発車を見合わせております』
「…………マジで?」
私の荒い鼻息も、涼太の笑い声も全てそのアナウンスで塵と化していった。