第68章 際会
駅長室を出ると、今までどこかにいっていた疲れがドッと押し寄せてきた。
ホームに繋がる階段がずっと遠くに感じる。
「みわ、どこかで休む?」
涼太はそう言ってくれたけど、早くこの駅を出ないと途中で終電がなくなってしまうんじゃ……。
「ごめんなさい涼太、こんな遅くに。
私は大丈夫だから、帰ろう」
「……も、みわはなんでもっと甘えてくんないんスか」
ぎゅっと涼太が抱き締めてくれると、おさまっていたはずなのにまた手が震え出した。
左手がジンジンする。
「じゅーぶん……甘えたよ……
こんな遠くまで、ありがとう」
考えないように、考えないように。
そう思っている事が逆に一所懸命考えてるなんて事に気付きもせず、私は涼太と帰りの電車に乗った。
主要ターミナル駅、とまでは行かないけれど規模の大きなこの駅でもこの時間にはホームは閑散としていて、風通しが良くなっている。
生温い風が頬を撫でて、不安な気持ちを更に煽り、不快だった。
遅い時間になると、急行電車の本数自体が減っているらしく、仕方なく次に来た各駅停車に乗ることにした。
相変わらず乗客は少ない。
静まり返った室内に車内のクーラーの唸り音だけが響いていて、人の熱気が少ないせいか、車内の温度は下がっていく一方。
それなのに、繋がれている右手だけがどんどん熱を持っていく。
「みわ、出てきちゃダメだって言ったのに、なんで出て来ちゃったんスか」
「う、だって……他の女の人まで巻き込まれそうになってたから……」
そう言うと、涼太はハァァァと大きくため息をついた。
「た、ため息は幸せが逃げちゃうよ?」
この空気をなんとか緩和しようと、ふざけた感じでそう言ったんだけど……。
「みわさん」
そう呼ばれて目を合わせると、怒った目をした彼がそこに……。
「……ごめんなさい」
その刺すような眼力に、ただただ謝ることしか出来なかった。