第68章 際会
はぁ……
心臓のドキドキも涼太のおかげで少し落ち着いてきた。
こまめにくれる彼らしい気遣いの入ったメッセージも、気持ちが安らぐ。
先ほど届いたメッセージには、あと10分程で到着すると書いてあった。
最近改装されたのか、駅のトイレにしては造りがキレイだ。
まるでファッションビルにある最新のトイレのようだった。
このパウダールームにも椅子がきちんと設置されていて、ゴミ1つ落ちていない。
それなのに、汚れのない鏡に映る自分の顔は土気色をしていた。
私より少し年上くらいの女性が2人、駆け込むようにしてトイレに入ってきた。
「なにあいつー気持ちワルッ!」
「ケーサツ呼んだ方がいいんじゃないの?
キモすぎるんだけど!」
それは、きっとあの男のこと。
まさか、他の女の人にも同じように……!?
呼び寄せてしまったのは私なのに!
慌ててトイレの外へ出ると、スウェット男はトイレに行こうとしている女性に近付き、何かを話しかけているところだった。
男は逃げるようにして小走りになる女性の鞄を掴む。
女性も振り払おうとするけど、力の差があり、なかなか離して貰えない。
怖いのに。
怖いけど、手と足が勝手に動いていた。
「やめてくださいっ!!」
そう言って男の腕を掴み、女性の鞄から手を離すように引っ張る。
引っ張り合いになるかと思ったら、以外にも男は女性の鞄の紐を握った手を、あっさりと離した。
「逃げてっ」
女性はそれを聞いてトイレに駆け込んだ。
良かった。
「……おい」
女性に一瞬目を取られたスキに、男は凄い力で私の顎を掴んだ。
「オメーが出てこないから代わりの女を探してたんだろが。アァ?」
「う、ゥ」
「久々に会ったってのに、冷たいじゃねーか。
タダでやらせろとは言ってないだろ?
今一発いくらなんだって聞いてんだよ」
「……!?」
久々に……会った……!?
正面からハッキリ顔を見るのはこれで2回目だけれども、勿論この顔に見覚えなんかない。
掴まれている間に、先ほどと同じように鼻をつく異臭。
「おい、忘れたとは言わせねえぞ?
お前にいくらつぎ込んだと思ってるんだ」
「こら! その手を離しなさい!!」
駅員さんが3人、こちらに向かってくる。
男はあっという間に縛り上げられた。
なに……なんなの……?