第68章 際会
さつきちゃんとは、ウィンターカップ前までにはまたお茶でもしようと約束して別れた。
まだここから2時間近くかかる。
スマートフォンで調べ物しながら行けばすぐかな…。
どうやら通勤の流れとは逆方向のようで、それほど混んでいなかったので座る事が出来た。
ホッと一息つくと、すぐに窓の外の景色が流れ出す。
各駅停車だから少し時間がかかるかな…どこかで急行の待ち合わせでもするかな、と思っていたけれど、この電車が終点まで先の到着になるとアナウンスがあった。
それなら仕方ない、このまま乗って行こう。
次の駅に停車すると、数人乗客が乗り込んできた。
大体皆、人とは間を空けて座っているのに、上下黒のスウェットを着たおじさんが、ピタリと密着するように隣に座ってきた。
こんなに他の座席が空いてるのに。
その体温とお酒臭さに背筋がゾッとした。
あまり露骨にならないようにさりげなく立って、隣の車両に移る。
心臓がバクバクいっている。
大丈夫。
別に、何をされたわけでもない。
ただの酔っ払いだ。
隣の車両も混雑はしておらず、空いている席に腰掛けた。
呑気なメロディと共にドアが閉まる。
ふぅ……。
スマートフォンを鞄から出して、早速検索をかけよう。
必要な資格、資格を取るためには、最適な学校、奨学金制度……ああ、何から調べよう。
少し考え込んでいると、まだ電車は発車したばかりで駅には停車していないのに、隣に人が座った。
え?
スマートフォンへの目線の先に見える、黒のスウェット。
……さっきの人だ……追いかけてきた?
やだ。
怖い。
目を絶対に合わせないようにして、席を立った。
座るからいけないんだ。
またそっと隣の車両に移動して、隠れるように座席のすぐ隣のスペースに立っていた。
なんで? 怖い。
酔っ払いに目をつけられた?
でもあんなに酔っていたら、そのうち寝てしまうはず。
座ってなければ大丈夫。
でも、心臓の音は大きくなるばかりだ。
怖い。
でも、大丈夫。落ち着いて。
……ほら、来ない。
すると、私の期待を裏切って、静かな車内に、車両を繋ぐドアが開く音が響いた。