第68章 際会
「よく来たなー2人とも」
まるで田舎のおじいちゃんが孫に言うようなセリフと、いつもの柔らかい笑顔。
このいつまでも続く暑さにも全く動じてないように見える。
木吉さんが焦ったり取り乱したりする事ってあるんだろうか……。
「まあ、ゆっくり見て行ってくれよ」
池の鯉でも見せてくれそうなその口調。
彼の周りだけ、ゆっくりとした時間が流れているような感覚。
涼太の雰囲気とはまた違ったその空気に、緊張が少しずつほぐれていく。
しかし、そこに現れたのは全く正反対のチャキチャキした動きのスタッフさん。
「あなた達が木吉君のお友達? よろしくお願いします。
木吉君の日課が終わったら、少し案内してあげるよ」
少し気の強そうな小柄な彼女がそう言って、木吉さんに手を貸した。
あんな身長差で、どう補助するんだろう……と思っていたのも束の間。
そうだった、ここは今、日本の中で最先端の場所。
集められたスタッフも超一流なんだ。
そんなスタッフさんが、見ず知らずの私たちに案内をしてくれるなんて……。
木吉さん、益々ナニモノ?
木吉さんの日課(リハビリの一部をこう呼んでるらしい)が一段落すると、2人は汗だくで私たちの元へやってきた。
「お待たせ。木吉君は暫く休憩するから、その間にじゃあ案内しようか……って、貴女それ、折ったの?」
彼女は私の左手を見てすぐにそう言った。
骨折した左手はもうほぼ完治していて、あとは元通りに動くよう、リハビリに通っている段階だ。
「あ、はい、今リハビリ中で……」
細い腕が私の左手を掴むと、力を込めて色々な方向に曲げ出した。
「い、いた、イタタ」
「……これ、ちゃんとリハビリしないと元通りの可動域にはならないよ。
これから先、仕事で手を使うような事をしたいんだったら、今ちゃんと治さないと」
今通っているリハビリではダメなんだろうか。
「今は町のお医者さんにかかってるの?」
「そうです……」
「……全部が全部信用ならないってわけじゃないけど、リハビリはちゃんと専門家のいるところでやらないとダメ。
今後の人生も左右するよ、手が不自由っていうのは」
そう言って、スタッフさんは説明しながら正しいリハビリを教えてくれた。
次にお医者さんを選ぶ時の指標になるようにと。