第68章 際会
「笠松クン!」
オレの背後からセンパイを呼ぶ声。
「あっ、ハイ!」
笠松センパイがその声の主に気付いて、慌てて立ち上がった。
貴重、なんて貴重なワンシーン。
でもこれをからかったら後で思いっきりシバかれるんだろうな。
「これ、この間頼まれてた書類」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
センパイが顔を赤くしながらも女の人とちゃんと話せてる。驚きだ。凄いな大学。
「ううん、お安い御用……って、誰このイケメン」
「あ、高校の後輩です」
「ドモ。お邪魔してマス」
笠松センパイの手前、オレも立ち上がってぺこりと挨拶をした。
茶髪のロングヘアー。小柄でえらい美人だ。
顔が小さく、目鼻立ちが整っていて、モデル仲間と遜色ないレベル。
そして恐らく、"自分はモテる"というのが自分で分かってるタイプ。
彼女はオレを見上げるようにして目を見開いた。
「うわっ、いい身体してるね……ってキミ、黄瀬涼太クン?!」
「あ、そうっス、ご存じなんスか」
「この人はウチの2年生で、マネージャーだよ」
マネージャー。なるほど。
しかし、オレを見て異様に目が輝いている。
「え、何、うち受験するの!?」
ぺたぺたぺたとオレの胸板をひたすら叩いている。
「いや、オレまだ高2なんスけどね」
「じゃ再来年、来るの?」
なんつーグイグイくる人だ。
肉食女子が増えてるとは聞いてるけど。
「いやまだ決まったわけじゃ……」
「キミとは純粋にバスケの話がしてみたい。受験考えてるならそこんとこも相談乗るから連絡して」
彼女はささっとスマートフォンを取り出した。
う、これは。
「連絡先交換しようよ」
「あ、えーっと……」
みわの方をチラリと見る。
特に、表情の変化はないようだけど……
……この流れで断るのは、角が立つよなあ……
ま、純粋にバスケって言ってるし、連絡しなければいいだけだから、いっか。
オレもスマートフォンを出して連絡先を交換した。
「あ、あの……私も交換していただけませんか」
みわがおずおずとオレの背後から申し出る。
頑張って勇気を振り絞っているのが分かって、感動さえ覚える。
「あたしアナタには全く興味ないけど、黄瀬くんに免じて交換してあげる」
……このヒトもだいぶクセモノみたいだ。