第14章 花火
「花火なんて久しぶり! どれからやる?」
おばあちゃんとやった記憶しかないけど……。
「オレこれ! なんかみわっちっぽい色だし」
黄瀬くんが取ったのは、パステルカラーで様々な色の持ち手の線香花火。
私は、黄色と青の持ち手の線香花火にした。
「私これ、『海常の黄瀬』って感じ」
「でも、なんつーか線香花火はボトッと落ちちゃうから縁起悪いっスね……」
「そうかなぁ。人間はいつか必ず死ぬし、生きている間に美しく輝けるならいいんじゃないかなって思うよ」
「なんか哲学的っスね。オレ、難しい事はわかんねっスけど」
「大丈夫。黄瀬くんは、黄瀬涼太は落ちないよ」
「……そっス……かね……」
黄瀬くんは、何がそんなに不安なんだろう。
私と違って、なんでも持ってるしなんでもできる。誰からも必要とされている。
でも、核心を突くような事を聞けない。
なんか、そこは聞いちゃいけないラインのような、そんな気がする。
……私は、少しは強くなれているんだろうか。
黄瀬くんとは肌を合わせる事ができるけど、相変わらず電車は怖いし、バスケ部以外の男子となんて、ロクに話ができないままだ。
……一歩ずつ、進んでいかなきゃ……
「どっちのが長いか、競争しねっスか?」
「ふふ、いいよ。勝ったら何かあるの?」
「う〜ん、相手のお願いいっこ聞くとか?」
「わかった。頑張れ黄瀬くん花火!」
ライターで火をつけて、しばし無言。
暗闇の中で、輝く2つの花火。
キレイだなぁ……
……夏、だなぁ……
「あっ!」
ぽとっ、と黄瀬くんが持っていた花火が、私のものより一足先に終わりを告げた。
「わーい、黄瀬くん花火の勝ち!」
「あれ〜みわっち花火! 途中まで良かったのに!」
「私みたいな根性なし花火を選ぶからいけないのよ黄瀬くん!」
黄瀬くんが負けるわけないんだから。
「なんか違くないっスか!」
「お願いごと、何にしよっかな」
「なんでも聞くっスよ女王様……」
お願いごと、かあ……願い……
「身体、大事にして欲しい」
「うん、気をつけるっス。……で?」
「え、今終わったけど」
「え? いや、そうじゃなくて、コレして欲しいな、とかないんスか!」
「……だから、身体大事にして欲しいな、って思ったから」
あれ私、またズレてる……?