• テキストサイズ

【黒バス:R18】解れゆくこころ

第68章 際会


「りょ……」

唸る洗濯機の音で、彼の足音に気が付かなかった。

しまった。
選手である彼の方が、何倍も何倍も悔しいはずだ。

なのに、彼はもう前を向いている。
こんな風に、いつまでも私が悔しがったってどうしようもない。

急いでゴシゴシと目を擦った。

「みわ」

「あ、ご、ごめんネ、遅くなっちゃって。今……すぐ戻るから」


未練がましく手に持っていたユニフォームをカゴに入れて、涼太の腕の中から出ようと押した。

けれど、私の胸の前で組まれた腕の力は全く弱まる事がない。
ギュッと彼の身体に押し付けられて、身動きが取れない。

「……あの、涼太」

「……」

「ご、ご飯何かな。涼太も食べて行くでしょ、だから」

「みわ、ガマンしないで」

また、左手が指先までジンジンと響くような痛みに襲われる。

「オレね、座右の銘は"自分に正直に"なんスよ。みわは?」

「……"努力は人を裏切らない"」

……努力、皆……あれだけ努力したのに……。


「みわらしいっスね。ね、こっち向いて」

「……や」

やっぱり上がって貰うべきじゃなかった。
一緒に居たいって思ってしまったのが、間違いだった。

ちゃんと気持ちを切り替えてから会うべきだったのに。

大きな手が、ボールを掴んでいた長い指が頬に触れる。

「みわ、顔見せて」

その甘い声に囚われて、振り向いてしまいたくなる。
首を横に振るのが精いっぱい。

「……オレも悔しいっスよ」

「……わ、っ……!」

優しく包んでくれていた腕にグッと力が入り、視界が自分の意思に反してぐるりと回ると、無理矢理涼太の胸の中に吸い込まれた。

「勝てなくて、ゴメン」

「! りょ、涼太が謝ることじゃな……」

頬に、温かい水のようなものが当たった。
……涼太、が……

「……オレも、悔しい」

「……っ」

それが引き金になって、溢れ出る涙が抑えられなくなった。

顔を上げる事はできないまま、涼太の胸に顔をうずめて……2人で泣いた。


/ 2455ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp