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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第68章 際会




夏が、終わった。

泣きたくなると、左手が痛むようになった。
もう、怪我の完治も近いというのに。

涼太は遠征で疲れているのに、私を家まで送ってくれるという。
駅まででいいと言うのに、やっぱり聞き入れては貰えなくて。

いつまでもこんな顔してちゃいけないの、分かってはいるけど。



「おばあちゃん、ただいま」

「お邪魔シマス」

涼太には、少しだけお茶でも飲んで行って貰おうと思って、上がって貰った。

「涼太、座ってて。私、洗濯機回してきちゃうから」

「ん、りょーかいっス」

「涼太のも一緒に洗おうか? 着替えとタオルくらいだよね?」

「んや、いいっスよ。帰ったら洗う」

「でも、帰るの……遅くなっちゃうし」


涼太が口元に柔らかい微笑みを湛えたのを見て、ようやく自分の失言に気付いた。

しまった。これじゃ、帰らないでって言ってるようなものだ。

「じゃあ、遠慮なくお願いするっス。これ」

洗濯物が入っている大きな巾着を受け取った。去年と同じだ。

「黄瀬さん、お茶淹れるわね」

「あっ、スイマセン!」


おばあちゃんと涼太の談笑を背に、洗面所へ向かった。

ジェルボール状になっている洗剤の後に、タオルを洗濯機へ放り込む。
自分の、涼太の、部室へ明日戻すもの。

柔軟剤を専用投入口に入れてフタをすると、開始ボタンを押した。

洗濯機が自らの重量を計り、放水を始める。

今の内に、次の洗濯物の仕分けをしておこう。
去年は、ひとり暮らしで涼太のユニフォームにサカって、恥ずかしい事をした。

同じように涼太のユニフォームを手に取った。

深い青のユニフォームと白いユニフォーム。
どちらも海常らしい、大好きなユニフォームだ。

乾いて汗の匂いが僅かに残っているユニフォームを抱きしめると、胸が締め付けられるように痛んだ。


悔しい。
悔しい……。

あんなに、皆で頑張ったのに。


「……ッ……」

流れてくる涙が止められない。左手がジンジンと痛む。
鼻がツンと痛くなり、頬を次から次へと温かいものが伝っていくのが分かる。

「……っ、ふ……」




瞬間、歯を食いしばって強張った身体を熱が包む。

痛む鼻腔に、嗅ぎ慣れたおひさまの香りが舞い込んできた。


「……みわ、1人で泣かないでっていつも言ってるでしょ」


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