第67章 想い
赤司っちの後ろを流れる背景が、彼の髪色と相まってまるで歓楽街のネオンのように鮮やかに見える。
「海常もこのあと練習か?」
「そうっス。運動公園内の体育館使える事になってて。けど、ウチの時間は結構遅くなってからっスわ」
「次に会えるとしたら準決勝かな。
紫原は手強いと思うが」
そう言って微笑んだその顔は穏やかで、人が変わったようになる前の昔の赤司っちのままだった。
「そうっスね」
談笑していると、いつの間にか景色は見覚えのあるものになっていた。
みわと昨夜歩いた川沿いの道。
ふと、満天の星空とみわの笑顔を思い出した。
「どうやら心配をかけてしまったようだ」
「?」
赤司っちの発言の意味が分からず、彼の視線を辿るようにして窓の外に目をやると、旅館の入り口の前にぽつんと人影が立っているのが見えた。
通る車全てに、オレが乗っているのではないかと視線を送っている。
その健気な姿に、心臓が勝手に騒ぎ始める。
「みわ」
車を降りて声を掛けると、みわはホッとしたような表情を浮かべた。
「お帰りなさい」
オレに続いて赤司っちが車を降りてきた。
「黄瀬を突然攫ってしまって済まなかったね」
「いえ……わざわざ送って頂いて、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げてはいるが、みわから発せられる空気はピリリと引き締まったものになっている。
「……まるで毛を逆立てた猫のようだ」
赤司っちの口調は優しいままだったが、2人の視線はバチバチと音を立てそうなほどだった。
「みわ、れ、練習っスよ!
赤司っちも、わざわざ送ってくれてありがと」
2人の視線を遮るように間に滑り込むと、空気が若干和らいだ。
「じゃあ黄瀬、また」
赤司っちはクスクスと笑って車に乗り込んで行った。