第67章 想い
「……ごめん、みわ」
必死で息を整えようとしているみわの浴衣を直してやる。
こんな大事な時に暴走してどうする。
盛りのついた動物じゃあるまいし。
「立てる?」
みわは両手を支えてベンチから立ち上がると、帯を軽く締め直した。
「じゃ、戻ろうか」
「うん、もど……わあっ!」
「みわ!」
何故か突然ぐらりと体勢を崩したみわを支えようと手を伸ばしたが、一足遅かった。
ボフンという音と共に、みわはベンチの後ろの芝に転がった。
「ごめん、間に合わなかった……何に引っかかったんスか?」
「あの、自分の右足に左足が引っかかっちゃって……」
そうだ、みわはスポーツ経験者らしくない運動神経の持ち主だった。
「あ……キレイ……」
みわは芝の上に仰向けになったまま、空を見上げていた。
「ん?」
オレも、彼女と同じものを共有したくて、横に寝転んだ。
「……ホントだ、キレイっスね」
視界の上から下まで全部星で埋め尽くされてる。
まるで、あの日見たプラネタリウムみたいに。
「涼太、折角お風呂入ったのに汚れちゃうよ」
くすくすと笑いながらそういう声も、BGMのように心地よく耳に入ってきた。
「いーんスよ、そんなの……」
2人で空を見上げて、暫く言葉を失っていた。
降り注がんばかりの星々。
大きさの違いまで、ハッキリと見える。
「……こうして生きてると、何が上とか下とか、つい比べたくなっちゃったりそれで落ち込んだり惑わされたりするけど……。
小さい星も、大きな星も、それぞれ違う輝きで本当にキレイ」
それは、みわの生き方を表しているような言葉。
みわは、何も求めない。何も比べない。
人と接する時だって、その人その人をきちんと見つめて、向き合ってる。
そんな事当たり前って思っても、それが出来ないのが人間なんだ。
色んな汚い感情が邪魔をして、素直になれない。
みわの、驚くほど純粋なこころに、どんどん惹かれていく。
好きだ。
オレはこんなにも、人を好きになった事がない。