第67章 想い
聞き慣れたリィリィという虫の声と、眼下に流れる川の水の音だけが耳に入ってくる。
暫くの間、2人とも無言だった。
「……三途の川を渡る前で」
涼太が、ふとぽつりと漏らした。
「えっ?」
三途の、川?
「もし……どちらかが先に……何十年後かにそういう事になったら、三途の川を渡る前にもう片方が来るのを待ってることにしないっスか?」
涼太は本当に、突然思いもしない事を言う。
「ふふ、何それ」
「待ち合わせしよう。場所はまた考えとくけど」
まるでデートの約束のようにそう言うのが、なんだかおかしくて。
「ね? みわ、約束して」
涼太はそう言って、小指を差し出してきた。
まるで子どもみたいだ。
大人顔負けの行動をしたり、かといえばこうして子どもみたいにして。
目が離せない。
もっともっと、知らないあなたを知りたい。
その長い小指に、私の短い小指を絡ませた。
半年先の自分も見えないのに、ずっとずっと先の約束をするなんて。
私は、いつまであなたの隣に居られるかな。
「指切りしたっスよ」
涼太はそう言って満足気に微笑んだ。
「嘘ついたら針千本、ね」
「あ、みわ。
いまの話半分に聞いてないっスか?」
涼太はずずいっと顔を近づけて、ぷうと頬を膨らませた。
「ちゃ、ちゃんと聞いてたよ!
ちゃんと、約束したよ!」
「ホントに? 冗談だと思ってない?」
「ほんと、ほんと。思ってない思ってない!」
ち、近い! 近い!
「……みわは、いつになったら照れずに目を合わせてくれるんスか?」
「い、いや、これでも見れるようになった方なんだけど……」
ちらちらと目を合わせる。
うう、近い……。
「……かーわい」
柔らかい唇が、そっと重なってきた。
ふわりと香るシャンプーの香り。
もっと、もっとしたい。
もっと、深いの……
声に出来ない私の欲望を汲み取ったように、ふたつの唇は重なりを深めていった。