第67章 想い
「……インターハイだね」
この大会の為に、どれだけ練習したか。
どのチームも、死ぬほど練習しただろう。
うちの皆だって、倒れながら、吐きながら練習したんだ。
その身体を労わるように、万全の体制で戦いに挑めるように手伝うのが私の仕事。
片手しか使えないから、体重をかけながら少しずつ筋肉を揉みほぐしていく。
暑い時期だって関係ない。
バスケに怪我はつきものだから。
「神崎先輩、私先にお風呂入らせて貰ってもいいですか?」
「あ、うん。私も終わったら入るから大丈夫だよ。ありがとう、お疲れさま」
ぺこりとお辞儀をしてスズさんは選手達の部屋を出て行った。
既に部屋中には、全て終えた選手達の鼾が鳴り響いている。
早川先輩と中村先輩は、窓際に向かい合って座り、ホワイトボードを片手に、あーでもないこーでもないと論議していた。
「緊張、してる?」
まだ片足の腿あたりにようやく差し掛かったところ。
うっとりと目を瞑っていた涼太は目を開けて、琥珀色の瞳を柔らかく曲げて言った。
「いや、特には」
……さすがエース、としか言いようがない。
彼も当日こそ緊張した面持ちになるけれど、私みたいに試合のない日でもドキドキソワソワするような事はないみたいだ。
「もう、なるようにしかならないっス」
「うん……そうだね」
それは、極限まで努力をした人間だけが発することのできる言葉。
ウインターカップが終わってから今日までで、またこのひとは一回り大きくなった。
もしかしたら、ゾーンだって入れるかもしれない。
もうあれから、オーバーワークになるような練習はしていない。
涼太だって、二度とあんな想いをしたくないはずだ。
「頑張ってね」
口の中だけでぽそりと呟いただけだけれど、彼の甘美なまでの微笑みはきちんと受け止めてくれていた。