第67章 想い
「皆、優しいね」
紫原っちがあんな風に女の子に接するなんて珍しいな。
いや、中学時代の彼しか知らないけど。
しかし、自分の学校名が入っているボールペンをライバル校に渡しちゃうあたり、紫原っちらしいというか。
みわはどことなく元気がない。
さっき、女の子がお父さんの胸に飛び込んで行った時、ホッとした表情と共に見せた少し寂しそうな顔。
お父さんに会いたいと言っているみわには少し残酷な光景だったのかもしれない。
「みわ、外でも散歩しに行かないっスか」
「えっ、でもスズさんも待たせてるからそういうわけにはいかないよ」
どこまでも真面目な子である。
オレみたいに気分が乗らないから~っていう理由で行動する事はないんだろうな、みわは。
「じゃあ、寝る前でいいっスよ、風呂上がったら声かけて」
「う、うん、分かった」
パタパタと部屋に戻って行く姿はいつも通り……転びそうな足取りだ。
「神崎先輩、黄瀬先輩、遅かったですね」
「ごめんね~……」
「もう、後は黄瀬先輩だけですよ」
スズサンもすっかり頼もしいマネージャーだ。
マッサージやストレッチの補助の質は、まだまだみわには及ばないけど。
あんだけ頑固な子が心を入れ替えたのは凄い事だと思う。
まあ……自分のせいで人やみわが怪我して、IHも棒に振るという事をしでかしたんだから、当然か。
これで今まで通りの態度を貫かれたら、オレが黙っていなかっただろう。
オレはストレッチをスズサンに補助して貰いながら済ませ、軽くマッサージもして貰う。
「……スズサン、悪いんスけど足はみわにお願いしてもいいっスかね?」
「あ……はい、分かりました」
頑張ってくれているスズサンには失礼な話だと思うけど、やっぱり足だけはみわにやって貰いたい。
全く、我ながらワガママなエースだ。
「私、右手しか使えないからちょっと時間かかっちゃうけど、いい?」
「うん、みわのペースでいいスよ」
勝利の女神の洗礼を受けておかねば、なんてね。