第67章 想い
「みわ……戻ろっか、部屋」
「あ……っ、ごめんなさい、大丈夫」
皆がいる前でこんな態度、情けない。
サッと涙を拭って、これまで付き合ってくれた陽泉の2人にお礼を言わなきゃ。
「お2人とも、大会前の大事な時間なのに申し訳ありません。ありがとうございました」
「お腹すいた~。室ちん、かえろ」
紫原さんのその素っ気ない気怠げな態度の中には、気遣いのようなものを感じた。
「……ところで、神崎さん、だっけ。売店に用があるんじゃなかったのかい?」
「あ、そうでした……」
そうだった。氷室さんのその言葉で本来の用件をようやく思い出した。
もうすっかり忘れてしまっていた。
客室へ通じるエレベーターは売店がある階にしかない為、皆で売店前まで戻る事に。
「みわ、何しに来たんスか?」
「あの、ボールペンが折れちゃって、買いに」
「……ボールペンって、折れるんスか?」
「見た目からは予想もつかないけれど、意外に……」
涼太の驚いた顔に、更に氷室さんまでその話に乗ってきて。
「ちょ、ちょっとうっかりして!」
なんか私がへし折ったみたいな空気になってるけど、違うもん!
「みわ、イライラしてたの?」
「ち、違うよ! 私が折ったんじゃないよ! いや、私が折ったんだけど、違うの!」
もう、何言ってるのやら。
売店の前に戻ると……売店は、牢屋のようなシャッターが閉まり電気も消え、既に閉店していた。
「あれ……」
旅館の売店はそんなに閉まるのが早いのね。
知らなかった、ついコンビニくらいの感覚でいたら。
「閉まってるっスね」
「……明日また来るよ……」
ヘンな人にも絡まれたし、もう私は一体何をしに来たのか。
残念すぎる……。
ついがっくりとしてしまうと、目の前にボールペンが差し出された。
「これ、あげる~」
紫原さんがそう言って差し出したボールペン。
「え、いいんですか?」
「どうせ使わないし。なんかの記念で貰ったやつ」
その細いボールペンを見ると、陽泉の校章と高校名が印刷されていた。
「あ、ありがとうございます」
いいのかしら……。
「じゃーね」
紫原さんは振り返る事もなく行ってしまった。
「意外だな、アツシはああいう子が好みかい?」
「……別にそんなんじゃねーし」