第67章 想い
「ぱぱ!」
りょうちゃんが、今日会ってから一番の笑顔を見せてくれた。
「りょうか!」
りょうちゃんは、りょうかちゃんっていうのか。
りょうかちゃんは、お父さんの胸に飛びついていった。
「ダメだろ、お姉さん達を困らせちゃ。ちゃんとごめんなさいした?」
「あ、いいんですいいんです」
お父さんも凄い汗だ。
きっと、心配で探し回っていたんだろう。
「ままー……」
りょうかちゃん、まだお母さんを探してる。
「あの、お母さんはどちらに……?」
てっきりお母さんが探しに来てくれるものだと思っていたので、お父さんが来た事に少し驚いてしまった。
お父さんは、ポリポリと頭に手をやって、バツの悪そうな顔をした。
「ああ……お恥ずかしい話なんですが、先週離婚しまして。
何度言っても、まだこの子には分からないみたいでしてね……」
「そうだったんですか……」
「ままぁ……」
そうだろうか。
りょうかちゃんの寂しそうな顔。
あさっての方向を指してお母さんを探させたこと。
ハッキリとは分かっていないと思うけれど、小さいながらに異変を感じ取ってるのだと思う。
「……りょうかちゃん、寂しがっているんだと思います」
「え?」
「お母さんがいなくて、寂しがって、ます。ちゃんと、分かってあげてください……」
親がいない寂しさ。
ハッキリとした記憶もない癖に、どこか自分を重ねて見ていた。
「そうですね。もう来週には新しい母親と顔を合わせますし、ちゃんと言ってきかせます。
本当にありがとうございました。それでは」
お父さんは、りょうかちゃんを連れてそそくさと去ってしまった。
「何あれ、感じわる~」
紫原さんは何か納得いかないという感じで、父子を見送っていた。
「……ちゃんと、分かるのにな」
あんな小さい子に、寂しい思いなんてして欲しくない。
まま、ままと小さい掌を広げてお母さんを探す姿。
私とは全く関係のない他人なのに、とても悲しくて悔しい気持ちになってしまう。
目頭が熱くなる。
「みわ」
涼太の大きな手が肩に触れた途端、ぽろりと涙が零れてしまった。