第67章 想い
その端整な顔つきからは想像もつかないような殺気めいたものに、思わず腰が引ける。
アブナイ。
氷室さんて、なんかアブナイ。
「あ、あの、本当にありがとうございました」
ボールペン。
そう、私はボールペンを買いに来たんだ。
ぺこりと頭を下げて去ろうとした時、泣き声が聞こえた。
「ままぁ〜……」
「……へ」
紫原さんと氷室さんの間から、小さな小さな女の子が、涙を流し、鼻をぐしぐしとすすりながら歩いてきた。
「ん?」
「室ちん、何この子」
「……迷子、かな?」
「ままぁ〜…………」
この2人の間にいると、間違えて踏んづけられてしまうのではないかと思うほどに、小さな身体。
しゃがんで目線を同じにすると、ようやく目を合わせてくれた。
3、4歳といったところだろうか。
「ママとはぐれちゃったの?」
「まま、いない」
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に探しに行こうか」
笑顔で頭を撫でてあげると、ようやく泣き止んでくれた。
きっと旅館内にいるだろう。
まずはフロントに行った方が良さそう。
「ん、じゃあ行こう」
右手を差し出すと、小さな手がぎゅっと握り返してきた。
可愛いな。
「だっこ」
「ん? 抱っこして欲しいの?」
「だっこ」
「はい、いいよ。おいで」
お母さんとはぐれて、心細いんだよね。
手を広げると、嬉しそうに抱きついてきた。
「よいっ……しょ」
抱いて立ち上がろうとしたらうっかりぐらついてしまい、咄嗟に左手で女の子の体重を支えたら激痛が走った。
「った……」
「大丈夫? 俺が代わろうか」
氷室さんがそう申し出てくれたけど、女の子は彼の顔を見るなり首をぶんぶんと振った。
「やー!!」
その拒絶っぷりに、氷室さんは固まっている。
きっと彼の人生の中で、女の子にこんなに拒絶された事はないんだろう。
例えそれが小さな子であっても。
「あ、あの、女の人じゃないと怖いのかも……しれませんね」
慌ててそうフォローした。