第67章 想い
「な……っ、なんだあ!?」
突然頭を鷲掴みにされた男は驚き、敵意を剥き出しにして振り向いた。
……が、相手を見るなりすぐにその顔が青く染まる。
自分の頭を掴んでいるのは、身長2メートルを超えた物凄い迫力の……彼をそう表現するのは適切でないかもしれないけれど。
とにかく、日本人離れしたその体躯。
少し長めの髪から覗く目線は鋭い。
「……あんた何してんの。邪魔なんだけど。
……ヒネリつぶすよ」
気怠げにそう言ったセリフは、相手を恐怖に陥れるのには十分すぎた。
どう頑張っても分が悪いと判断したのか、金髪男は何も言わずにダッシュで逃げて行った。
「あの……ありがとうございました、紫原さん」
私を助けてくれたのは、高校最強のセンター。
陽泉高校、紫原 敦さん。
巨躯とも呼べるその恵まれた体格に、天性の才能。
旅館の浴衣の合わせから覗くその立派な筋肉に、思わず息を呑む。
手元にしっかりと握られたまいう棒は、彼のトレードマークのようなものだ。
その後ろから、スマートな歩き姿で近づく影ひとつ。
「アツシ、何をしているんだい?」
「あ、室ち~ん。お腹空いた~」
紫原さんは何事もなかったように、後から来た氷室さんの元へ行ってしまう。
「あれ、君は海常の」
「こ、こんばんは」
紫原さんに、氷室さん。
陽泉のダブルエースと称される彼ら。かなりの実力者だ。
「あ~、見た事あると思ったら、黄瀬ちんの彼女か~」
「へ」
「ああ、彼の」
妙に納得された2人に囲まれて、なんだか気恥ずかしくなる。
「あれでしょ、雅子ちんがホメてたマネージャー」
「そうだね。
それにしてもこんなところで、どうかしたのかい?」
「いや~、通りかかったらドン臭そうにヘンなのに絡まれてただけ~」
ド、ドン……
いや、全く否定出来ない。
「ご迷惑をお掛けしました」
ここはちゃんとお礼を伝えておきたい。
深々と頭を下げて感謝の気持ちを表した。
「なんだ、そんな失礼な男がいたのなら、呼んでくれればすぐに助けに来たのに」
そう言って微笑んだ氷室さんの目は笑っていなかった。