第67章 想い
「スズさん、ゴメン! ちょっと先にやっててくれる?」
食事も終わり、これから選手達の様子を伺いに行こうという時に。
さっき備品関係の片付けをしている際に、ボードと荷物の間にボールペンが挟まっているのに気付かず、うっかり力を入れたらボッキリと折れてしまった。
私はメインで涼太に貰ったボールペンを使っているからいいけれど、あれは誰でもすぐ使えるようにしている物だから、1本減っただけでも結構不便だ。
宿の売店ならきっとボールペンくらい売っているだろうという事で、売店が閉まる前に行く事にした。
「……」
宿の売店って、凄いんだね。
どこを見てもお土産だらけ。
家族旅行なんてした記憶がないし、合宿は基本的に合宿所だし、去年のIHなんかはそもそも売店なんて気にしてなかったし……。
ちょっとだけミーハーな気持ちが顔を出し、棚をチラリと見る。
……試合なんだし気にしなくていいって言われたけど、おばあちゃんに何か買った方がいいのかな。
一口サイズの温泉饅頭の箱を手に取り、まじまじと見つめた。
「それ、買うの?」
……もし買うなら、帰りの方がいいかな。
うん、そうしよう。ボールペン買いに来たんだし。
「あれ、買わないの? オネーサン」
……ん?
もしかして今の声は、私に話しかけた、のだろうか。
振り向くと、根元が黒くなった金髪の男性が、こちらを見ている。
今話していたのは、この人?
「可愛いね。高校生?」
キョロキョロしてみるが、他に人はいない。
「キミだよ、キミ。修学旅行? 今夜ヒマ? 俺の部屋に来ない?」
え?
私?
……修学旅行ではないんだけどな。
こういう場合って、なんて言うんだろう。
遠征?
「ね、学校だと消灯早くて退屈っしょ? おいでよ」
手首をガッシリと掴まれて、凄い力で引かれた。
「あの、離してください」
売店の店員さん……と思って視線を泳がせても、誰もいない。
「ここで会ったのも何かの縁でしょ。大丈夫だよ、楽しい事しかしないから」
「は、離して」
お、大きな声を出さなきゃ。
そう思うのに、恐怖で声はどんどん小さくなる。
「ビビっちゃって、カーワイイ」
「や、やめ」
引きずられながら数歩進むと、金髪の彼の頭を、後ろから大きな手が包み込んだ。