第67章 想い
相変わらずすんなりと忍び込めてしまう寮内。
ここに来るのもなんだか久しぶり。
濡れた靴下は脱いで、柔らかいクッションに腰掛けた。
「ごめんね、突然。ご飯はもう食べたの?」
「うん。風呂入ろうと思ったら洗顔料切れてるのに気づいてさ」
そう言って冷蔵庫の中を覗き込んでいる。
「麦茶でいいっスか?」
「いいの、すぐに帰るから気にしないで」
「まあまあ、そんな冷たい事言わないでよ」
涼太は黄色と青のストライプになっているコップを2つ棚から取り出して、私の隣に座った。
彼の瞳よりも濃い琥珀色の液体を、コップにとぽとぽと注いでくれる。
「この近くでの用事だったんスね」
「あ、うん、さりあさんにお金返しに行ってたの」
別にやましい事があるわけでもないし……と思ってさらりと言ったつもりだったけれど、涼太の顔色が変わった。
「え!? 家に行ったんスか!?」
「お金返すだけだから、すぐに帰ってきたよ」
「何、金って! いくら借りたんスか? まだ残ってるの? オレが」
「ま、待って待って涼太、落ち着いて」
完全に身を乗り出して鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離で聞かれると、違う意味でドキドキしてしまう。
「違うの、昨日お財布を部室に忘れちゃって、桐皇に行く電車賃がなくて……それで借りただけ」
「電車賃……」
「もう返したから、今後家に行くこともないし……っ!?」
涼太の両腕が、私の二の腕をガッシリと掴んだ。
「ねえ、何もされてない?」
「さ、されてない、されてない」
「何かあって、だからあんな暗い顔で立ってたんじゃないんスか?」
暗い顔って……
ひとりだと思っていたから、確かに表情まで気を配ってなかった。
「違う、違うのそれは関係ないから!」
「ホントに?」
長い睫毛に、室内でもキラリと光る宝石みたいな瞳に圧倒される。
まるで蛇に睨まれたカエル状態だ。
「ほんと、ほんとに」
たっぷり十数秒見つめられて、涼太はハァと大きなため息をついた。
「……ならいいんスけど……あのヒト、みわの事狙ってるから、ホントに気をつけて」
「うん……それは聞いたよ」
迂闊なこの返答のせいで、また涼太の目の色が変わった。