第67章 想い
「……あたしね、みわちゃんの事が好きになっちゃったのよ」
「…………え?」
「あたしは、貴女が、好きなの」
いつもの、キレイなソプラノの声。
その口から紡がれるのは、どことなく現実味の無い言葉。
柔らかいコーヒーの香りが、鼻をついた。
さっき言われた、”貴女みたいな人好きよ”とは違うニュアンスだと言う事は、なんとなく分かる。
これは、黒子くんに言われたのと同じ……同じ種類の好き。
「わ、私なんかのどこが……」
こんなにキレイな人。
きっと、男の人だって女の人だって、惹かれるはずだろう。
「どこって? 健気で、一途で、優しくて。貴女を見て貴女に惹かれない人を見てみたいわ」
健気?
一途?
「そ、それは買い被りすぎだと思います」
私は、そんなにキレイな人間じゃない。
離れるのが怖くて、涼太にいつまでもぶら下がってる。
嫌われるのが怖くて、黒子くんに返事する事ができない。
不誠実の塊だ。
「クスリでも盛って無理矢理ヤッちゃおうかとも思ったんだけど……」
ハッと手元のコーヒーに目をやる。
結構飲んだけれど、身体には異変はない。
「そんなの、虚しいだけって貴女が教えてくれたから。
それに、貴女には……笑顔が似合う」
涼太も言ってくれる。笑顔が好きだって。
心から笑える日が来るなんて、夢にも思っていなかった、のに。
「あの、私、私は」
これ以上、傷付ける人を増やしたくない。
ちゃんと、言わなきゃ。
「……分かってるわよ、大丈夫。
困らせるつもりはないから」
「え……」
「あたしのせいだけど……あんなに酷い事があっても支え合ってるふたりを見て、入り込める余地があるとは思ってないわ」
さりあさんは目線を上げない。
いつもの強気な姿はどこにもなかった。
「悲しい片思いだけどね、貴女が幸せそうにしているならそれでいいと思える。
でもひとりで抱えているのはやっぱり苦しくて……ゴメンね、突然」
「その……想い、受け止められなくて……ごめんなさい。でも……ありがとうございます」
「その笑顔が見れたなら、十分よ」
そう言って合わせた目には、うっすらと涙が見えた。