第67章 想い
「ありがとうございます。ちょっと、悩んでいたので」
「みわちゃんも色々大変なのね」
「いえ、大変とかそういうのではないんですけど……」
こんなに普通に生活させて貰っていて、自分が恵まれていないとは思わない。
世の中には、もっともっと大変な人がいっぱいいる。
私なんかが、声を上げて助けを求めていいわけがない。
甘えちゃいけない。
だから、自分でお父さんを探して会いに行きたい。
それが出来たら、また一歩、進める気がする。
「あたし、貴女みたいな人好きよ」
「……」
ありがとうございます?
なんて言ったらいいんだろう、こういう時は。
未だに、人に好意を持たれるという事に慣れない。
素直に受け止められない……。
それに、さりあさんがした事は……やっぱり許せない。
それを無かった事にして、慣れ合う事は出来ない。
「ねえ、まだリョウタの事が好き?」
「はい」
「前にも言ったけど……あたし、欲しいと思ったものは何が何でも手に入れないと気が済まないタチなの」
さりあさんの表情が、変わった気がする。
涼太の事が、まだ……好きなんだ。
「ねえ、バイセクシャルって知ってる?」
「バイ……両性、愛者のこと、でしょうか……?」
名前は聞いた事がある。
男性・女性、どちらにも性的魅力を感じる……確か、そういうものだったはず。
「知ってるんだね」
「一応、知識として、ですが」
「どう思う?」
「どう思うって……どちらも恋愛対象になるなら、自分のかけがえのない人に出逢える確率も高くなるのかなって」
「……プッ」
さりあさんが突然吹き出した。
「あははははは! 男女どっちもいけるなら出逢いも多いだろうってことね、あはは、面白い!」
面白いだろうか。
純粋に、そう思っただけなんだけど……。
あはははと笑い声が響いていたけれど、突然ピタっと止まった。
「皆がそうやってプラスに捉えてくれればいいんだけどね。実際は差別との戦いよ」
「……え?」
「あたしね、バイなの」
……え?
「あたしの別れた恋人は、女性よ。
あたしが一度でも、恋人の事を"彼氏"と表現したかしら」