第67章 想い
思いがけない質問にすぐには反応出来ずにいた。
「言いたくないならいいよ。気になっただけ」
答えようとしたけれど、先にそう言われてしまった。
「あ、いえ、これは……学校で階段から落ちて骨を折ってしまったんです」
「そう、それならいいんだけど……っていうか良くないね。部活するのに」
「まだ、暫くはかかりそうです」
さりあさん、以前にリビングで話をした時……お父さんもお母さんも離れていっちゃう、って言ってた。
さりあさんも、ご両親は近くにいないんだろうか。
「さりあさん、もし、差支えなければ教えて欲しい事があるんです」
「ん?」
「ご両親には……会ってるんですか?」
「会ってないよ」
即答。
でも、拒絶の色は見えない。嫌々答えている空気ではない。
事実だけを無駄なく伝える、そこには感情がない。そういう感じだ。
「会いたいとは……思わないんですか」
「ん~……」
しばしの沈黙。
「……会いたいって言うか……なんで捨てたのかな、っていうのは聞いてみたいけど」
「そうですか……」
「そこを受け止められないとさ、自分自身が誰からも必要とされない人間だって思ったまま、進めなくなっちゃうんだよね」
「……」
自分が、誰からも必要とされない……。
「でも、前の恋人に出逢って、あたしは変われたんだ。あの人に逢えなかったら、多分今でもその思いは消化しきれずに、両親に会いたいって強く思ってたかもしれない」
「恋人に……」
「親に植え付けられたものってさ、簡単にどうにかできるもんじゃないよ。
だから、直接会って話せるならそれが一番いいんだと思う。
会えないなら……自分なりに、落としどころを見つけていくしかないよね」
でも、自分自身が誰からも必要とされない……っていう思いは、以前よりもずっとずっと薄くなった。
自分に価値は見いだせないままだけれど、今は、涼太の隣に居たいと思うから。
なんとか、前に進まなければ、前に進みたいという気持ちが出てきているのを感じているから。
でもひとつだけ、もし叶うのなら……
……お父さんに、会いたい。