第67章 想い
登校して、財布は部室のロッカーの中に落ちている事に気が付いた。
「なんで気付かなかったんだろ……ばか」
昨日さりあさんに借りたお金のお釣りと自分のお財布から出したお金で、一万円にする。
五千円札と、千円札が5枚。
一万円札なんか持ってないんだけど、これでいいかなあ…。
練習が終わって片付けに入る前に、さりあさんにメールをした。
"もうすぐ帰るから、いつでもいいよ"
という返信が返って来たので、帰りに寄って行くことに決めた。
久しぶりの、このマンション。
少しの間だったけど、ここに住んでいたんだ。
涼太と過ごした日々が思い出されて、こころがホッとあったかくなった。
部屋番号を押してインターホンを鳴らすと、すぐに反応があり、オートロックのカギが開けられた。
まだここに来なくなって数ヶ月しか経っていないのに、ひどく久しぶりに感じる。
「いらっしゃい」
そう言ってドアと共に放たれた部屋の空気は、以前のように息が出来ないほどのタバコ臭さではなかった。
「コーヒーでも飲んで行って」
これでまた汚部屋だったらどうしようかと、思わず時計を確認してしまったけれど、中に入ると思いの外片付けられていて驚いた。
「凄い、キレイ」
正確に言うと決してキレイな部屋ではないとは思うけれど、以前の惨状を知っているだけに、とてもキレイに見えた。
「……ま、あれから少し落ち着いてね」
そう言ってさりあさんはインスタントコーヒーの瓶の蓋を開け、マグカップにさらさらと振り入れた後に、ポットのお湯を注いでいった。
「あの、お金、ありがとうございました。
一万円札がなくって、細かいんですが……」
「ああ、そんな律儀に。良かったのに」
お金を受け取ったさりあさんは、テーブルの上に置いてあったブランド物の財布にお金を収めた。
「昨日聞きそびれちゃったんだけど、それ、リスカ?」
さりあさんが私の左手を指してそう言った。
「え?」
「手首、切ってんの?」
そう言ってさりあさんは、自分の左手首をさすっていた。