第67章 想い
また、涼太とふたり並んで早朝の電車に乗っている。
暫く、頭を彼の左肩に預けて微睡んでいた。
今日も天気は、雨。
窓の外を流れる景色が露に濡れている。
車内も乗客が持ち込む湿気のせいで、不快な空気が漂っていた。
「なんか、つい最近もこんな事あったっスよね」
そんな中でも、聞いているだけで気持ち良くなるような透き通った声。
他の人に聞こえないようにボリュームを抑えたその音が耳に心地良い。
あれは、プラネタリウムに一緒に行ったデートの翌日……。
ふたりで朝まで眠ってしまい、慌ててホテルから朝練に向かった。
不純異性交友と言われても仕方がない最近の行動。
でも、彼と居て自分を制御する方法を知らなかった。
昨日は、さつきちゃんの家で皆で……だから、状況はまた違うけれど。
「……良くないね、こういうのばっかり」
そう言ってちらりと涼太の方を見ると、切れ長の瞳を柔らかい曲線に変え、微笑んでいる。
その余裕そうな表情になんだか納得がいかなくて、拗ねたように口をすぼめて睨み付けると彼の柔らかい唇が覆い被さってきた。
「ちょ、ここ、電車」
幸いにも唇は軽く重なった程度ですぐ離されたけど、ここは乗客が少ないとはいえ無人ではない電車内。
ぺしぺしと胸元を叩いて牽制した。
「なんだ、チュウして欲しいのかと思ったのに」
全てを見透かしたような琥珀色の瞳でいたずらっ子のようにそう言うと、梅雨の曇り空も吹き飛ばすような笑顔を見せた。
私はこのひとが好き。
涼太が、好き。
だから、黒子くんの気持ちには答えられない。
これは、もうハッキリしている事なのに、黒子くんにそう伝える事が出来ない。
どうして?
……傷つけたくないから。
ううん、違う。
傷つけたくないなら、早く彼に気持ちを伝えるべきだ。
傷つけたくないのではなくて、伝える事によって彼を傷つけて、自分が悪者になりたくないだけ。
嫌われるのが、怖いだけ。
今の関係が壊れて、もう必要とされなくなるのが、怖いだけ。
私はいつもそう。
そうやって、自分を守ってばかりいるんだ。