第67章 想い
「んじゃ帰るわ。さつきに言っといて」
とサラリと言った青峰さんは、本当に洗面所を出た足でそのまま帰ってしまった。
……幼なじみって、こんな感じなんだろうか。
滑り止めと手すりの付いた階段を上り始めると、上から涼太が下りてきた。
「あれ、青峰っちは?」
「帰っちゃった」
「自由っスねえ」
涼太は昨日のふたりの事を知らない。
中学時代から、あんな感じだったんだろうか?
「オレも顔洗ってくるっス」
「あ、うん。階段下りてすぐ左だよ」
「サンキュ」
どことなく機嫌の良さそうなその後ろ姿を見送って、私もさつきちゃんの部屋へ戻った。
「あ、みわちゃんお帰り」
さつきちゃんは通学鞄の整理をしているようだ。
「みわちゃん、ごめんね昨日は」
「あっ、ううん、私も眠かったからすぐ寝ちゃって」
なんとなく、あの光景を見てしまったからか、気まずい。
結局あの後ふたりはどうしたんだろう。
「大ちゃん、ホントに寝相悪いから……」
青峰さん、起きてたんだよ。
さつきちゃん、昨日青峰さんの腕の中で眠って、どんな気持ちだった?
色々な言葉が頭を巡るけれど、幼少期の頃から一緒にいるふたりに、軽々しく口を挟んではいけないような気がした。
きっと、青峰さんだって思う所があって、気持ちを隠しているんだろう。
ふたりの事だもん。
また、さつきちゃんが相談してくれた時に、答えるべきなのかな。
「青峰さん、帰っちゃったよ」
「ええ、またぁ? もう、大ちゃんってば、折角みわちゃん達が来てくれたのに」
文句を言いながらも、少しだけホッとしたような表情だった。
「またすぐに会えるよ、次はIH会場で」
「────そうだね、またコートで会おうね!」
今年のIH、バスケットボールは京都府の会場で行われる。