第67章 想い
「みわ……そんな叩かなくても……」
少し赤くなった頬を押さえながら、涼太が叱られた犬のようにしょんぼりしている。
「ご、ごめん……つい……起きないから……」
後ろではさつきちゃんが声を押し殺して笑っている。
「私、顔洗ってくる。洗面所借りるね」
あれだけ反省しても簡単に嫉妬してしまう自分にうんざりしながら、逃げるように階段を下りて洗面所へ向かった。
「あ」
「……おう」
洗面所でバッタリ青峰さんに会ってしまった。
「……おはようございます」
昨日は結局あの後、どうしたんだろう。
気になる……けど、もうあの瞳を見ただけで、青峰さんの気持ちは……。
「……昨日の」
少しバツが悪そうな顔をして俯く彼は、なんだからしくない。
むしろ私が邪魔者だったのに。
「幼なじみって、いいですね」
「あ?」
「昔から、ずっと一緒って……お互い、幼い頃から知っているって、羨ましいなって」
私も、もし涼太と幼なじみだったら……今とは違う『今』があったのかな。
同じ記憶を共有して、お互いの成長を身近で見れて……。
勿論、辛い事もいっぱいあったと思う。
帝光中学校での出来事もそのひとつだろう。
でも、それを乗り越えた今、ふたりの絆は何より強いものに見える。
青峰さんも、さつきちゃんも『ただの幼なじみだよ』って言っているけれど……
見えない赤い糸のようなもので、強く繋がっているような気がする。
それが純粋に、羨ましい。
羨んだってどうにかなるものじゃないって分かっているのに、ジリジリと胸が焦げ付く程、羨ましいんだ。
「お前だっていんだろ、ガキの頃からの知り合いくらい」
「私には……そういうひとは、いないから……」
「……そーかよ、悪かったな」
「いえ、謝らないで下さい。……昨日のことも」
「……そーかよ」
「ふふ、そーです」
きっと彼は彼なりに、不器用ながらもさつきちゃんをずっと見つめてきたんだろう。
なんて素敵な想い。
「幼なじみなんかいなくても、今オマエには黄瀬がいんだろ」
「……」
「なんだよ、その驚いたカオ」
「いえ、……そうですね、ありがとうございます」
飾らないその言葉に、胸が温かくなった。