第67章 想い
席に戻ると、既に話題は変わっていた。
今皆を熱くしているのは、今夏のIHだ。
誠凛も秀徳も桐皇も、本戦への出場を既に決めている。
今こうやって和やかに話していても、次に会う時は敵同士。
でも、確執もなくなって純粋に勝敗だけにこだわれるこの状態は、誰もが望んでいた事だろう。
後は、先程からずっと気になっていた事がひとつ……。
「そういえば、なんで木吉サンがいるんスか? 確か、海外に行ってるハズじゃ……」
太い眉に色素の薄い瞳、大きな身体の彼……そう、木吉鉄平さんは、確かウインターカップの後に海外で足の治療をすると聞いていた。
相田さんとは、さつきちゃんみたいにしょっちゅう連絡を取っているわけじゃないからその後の経過などは聞いてなかったんだけど……
「ああ、もう手術は終わって、日本でリハビリを続けてるよ。さすがに留年するわけにはいかないからな」
「病院でリハビリしてるんスか?」
わざわざ向こうで手術を受けて、リハビリだけは日本というのはちょっと勿体ないのではないかな。
医療が進んでいるのなら、リハビリなどの分野においても先進的なものを取り入れているかもしれないし……。
「リコ、頼む」
「そこでバトンタッチか! 神崎さん、今年日本に出来たリハビリセンターの事、知ってる?」
「はい、知ってます!」
「私も聞いたことあるよ~」
さつきちゃんも知っているらしい。
私は、今でも時々お世話になっている整骨院の先生からお話を聞いた。
日本で、最先端のリハビリ施設とスタッフを擁するリハビリセンターが新設された。
膨大な敷地と設備、優秀なスタッフで世界にも誇れる体制づくりが進んでいるという。
でも、誰でも入れるわけではなくて、まあ……それなりの財産がある人や、各界の著名人などが早速利用しているようだけど。
一般人となれば、それなりの紹介が必要になるはずで、確か、場所は東京のはずれの方だった……。
「オレ、今そこに世話になってるんだ」
あっけらかんと、人の良さそうな彼はそう言い放った。
「ええええええええええええ!?」
さつきちゃんと私の悲鳴がこだました。