第67章 想い
運悪く、信号機故障とやらで電車が数十分止まってしまい……。
目的の駅に着くのが予定よりも随分遅くなってしまった。
本当に今日は、ついてない!
再び街中を駆け抜ける。
雨音よりも更に大きな音で走り抜けていく女子高生に驚き、皆が振り返っていく。
更に足元が暗く、途中右足が水たまりに水没したけれども、もうそんな事に構っていられない。
1秒でも惜しいのに。
それなのに足は全然進まない。
涼太ならさぞかし速く走るだろうに……。
欠けた運動神経に悲しくなりながら、遥か先に見える桐皇学園の門を目指した。
「はぁ、はぁ、はぁ……!!」
心臓が悲鳴を上げて、肺が酸素を欲しがっている。
そんな臓器の懇願も全く無視して走り、ようやく辿り着いた体育館。
ドアから中を覗くと、既に試合は終了しており、選手はセンターラインに整列していた。
「あ、神崎先輩お疲れ様です。今、3試合目終わりましたよ。今日の予定はこれで終了です」
スズさんに爽やかにそう言われ、限界を超えていた私はその場でがっくりと崩れ落ちた。
「神崎、大丈夫か?」
すぐ側にいてタオルで汗を拭っていた早川先輩がこちらに気付き、声を掛けてくれた。
「早川先輩……電車が止まってしまって……間に合わなくてすみませんでした……」
「お疲(れ)。ビデオ後で見せても(ら)えよ!」
そう言って早川先輩は足早に去って行ってしまった。
武内監督と桐皇の原澤監督は、ステージ前で楽しそうに話している。
旧知の仲というだけあって、なかなかに盛り上がっているみたい。
後でご挨拶しなきゃ。
しかし足元もビショビショで、このままでは体育館に入る事すら出来ない。
替えの靴下とタオル、室内履きを取り出して急いで履き替えた。
「みわ!」
よく通る声に、聞き慣れた無駄のない足音。
「大丈夫っスか? ずぶ濡れじゃないっスか」
「走って来たんだけど……電車が止まっちゃって……間に合わなかったの」
「災難だったっスね」
汗で濡れた髪に上気した肌。
鎖骨を流れていく汗が、ひどくいやらしく映るのは脳が煩悩に支配されてしまっているからだろうか。
立ち上がるのを手伝うために差し伸べてくれた手は、とても温かい。