第67章 想い
「よろしくお願いしまーす!」
東京都、桐皇学園。
体育館に挨拶のために顔を出すと、そこには見慣れた顔がふたつ。
「よお黄瀬」
「どもっス」
バスケットボールを小脇に抱えた大男。
タンクトップの首元で汗を拭っている。
相変わらず季節を問わず肌が黒い青峰っち。
自信満々の表情は相変わらずだ。
「きーちゃん、背伸びたね」
みわよりも少し小柄な女の子。
桃色の長髪をポニーテールにしている。
「久しぶりっスね、桃っちも」
「まさかこんな時期に練習試合申し込まれるだなんて思わなかった! 今日はバッチリデータを頂きますからね」
そう言ってバインダーと筆記具を構える姿は中学時代から変わってない。
「神崎は後から来るっつってたか」
青峰っちの口から、桃っち以外の女の子の名前が出るなんて……
「青峰っち、まさかみわを狙ってないっスよね!?」
「ハァ!? テメーがさっきからソワソワしてっから聞いただけだろーが!」
「そ、ソワソワなんてしてねぇっスよ!」
「大体オレは貧乳には興味ねーんだよ」
「ちょ、青峰っちヒトの彼女のドコ見てんスか! アホ峰! エロ峰!」
体育館内には、試合前から異様な空気が漂っていた。
オレ達のせいで。
ブルブル、とポケットの中の端末が振動する。
スマートフォンのロック画面を見ると、メッセージアプリの受信通知。
メッセージや送信者は表示されない設定にしてあるから、アプリを起動させるまで誰から送られたものか分からない。
誰だろう。
そもそも、あまりやり取りする人間はいないはずだけど。
開いたアプリの「友だち」を表示する画面にずらっと表示される名前。
下にスクロールすればするほど、一体いつどこでどんな出会いをした人間なのか分からない名前が連なっている。
画面上部に表示されるのは、普段やり取りする人間の名前。
その中で、最も意外な名前の部分に受信を示す「1」という数字が表示されていた。
「……マジ、っスか」
「きーちゃん、鼻の下伸びてる」
「聞いてねーぞ、あれ」
「青峰さん、そろそろ準備を……」
「あぁ?」
「スイマセン! そ、そろそろ時間なんです……けど……スイマセン!」