第66章 和
「……スズサンとの関係、ちょっと良くなった感じっスか?」
「うん……正直どうしてかは分からないけど、最近……私が怪我してから態度が違うかなあ」
みわは、本当に自分の事になると鈍感というか……
5月のあの事故の後、早川センパイや中村センパイと話しているスズサンをよく見かけるようになった。
「スズサン、なんか心境の変化っスか?」
正直、この言い方は酷いかとも思ったが、彼女がわざとやったのではないという確証はない。
まさかわざと階段から転げ落ちて巻き添えにするなんて危険な事を考えるタイプではないとは思うけど……。
「わ、わたしにも何か出来る事があるんじゃないかって……」
「この間と随分態度が違うんスね」
スズサンは落ち込んだ表情で黙り込んでしまった。
みわの基本姿勢は『罪を憎んで人を憎まず』なのだ。
間違った人間に、やり直す機会を与える事が出来る。
でもオレは、みわに悪意を抱いてネックレスを捨てた事があるという前科がある以上、優しい目で見てやるつもりはない。
みわみたいに優しくは出来ていないんス。
「神崎先輩が、強いから……わたしも、見習わなきゃ、と思って」
もじもじと擦り合わせている指先は、少し荒れている。
あれだけ嫌がっていた水仕事をしているせいだろうか。
「ちょっとは改心したんスかね」
「……生意気な事ばかり言って、すみませんでした」
「みわにちゃんとソレが言えるんならいいっス」
「神崎先輩には……最初に、お話しました」
そうやって、最初は罪悪感と義務感だけで自分の行動を見直していた彼女が、6月に入ってからのIH予選でチームが勝つところを見て、バスケの楽しさ、選手達を支えるマネージャーの重要さ、チームワークの素晴らしさを体感したらしい。
試合会場から帰る時の彼女は、興奮しきりだった。
一見解決したように見えているスズサン案件も、まだ不安要素は残っていて。
「わたし、黄瀬先輩の事に関しては、神崎先輩に負ける気しないので!」
そう快活に言って彼女は去って行った。
……なかなかに手強そうである。