第66章 和
乱れた吐息の合間に、遠雷が聞こえる。
誰よりも太陽が似合う涼太が梅雨の時期に生まれたというのが、なんだか不思議。
……でも、涼太はよく底抜けに明るいような、ちょっとお調子者なイメージがあると言われるけれど、決してそんな事はない……と思う。
実は思慮深い、優しく繊細な彼。
彼の心の奥底は分からないけど、そんな中見せてくれる明るさが、皆を照らすんだ。
「……コレ、いつ買ったんスか?」
涼太は、さっきから私が買った避妊具の箱を眺めている。
「…………買ったのは、かなり、前。
涼太と……こういう事、するようになって暫くしてから」
「へぇ……」
やはり、ダメだっただろうか。
こういうのは男性のプライドを傷つけてしまうもの?
でも、あの状態で我慢するのなんてもう無理だったから……。
「余計な事して、ごめんね」
やる気マンマンで準備していたみたいで、恥ずかしい。
逃げるように布団に潜り込んだ。
「余計な事なんかじゃないっスよ、ちょっと驚いたけど……嬉しかった」
布団の中まで追いかけてきた涼太に捕まり、ぎゅっと抱きすくめられる。
なんだかくすぐったくて、でももう力の入らない身体ではどうすることもできなくて。
「みわ」
私を呼ぶ声が、髪を撫でる指が優しくて、安心する。
……今まで、ひとのぬくもりで安心したことなどあっただろうか。
抜け落ちてばかりの私の記憶の中には、ない。
優しく抱きしめて貰った事も、大丈夫だよと慰めて貰った事もない。
好きだと言われた事も、愛してると抱かれた事もない。
全部、全部涼太から貰った。
それなのに、私は彼のために何か出来ているんだろうか。
大体、自分の優柔不断さには嫌気がさす。
彼のために彼と別れようと思っていたのに、別れられなくて、離れられなくて、結局こんなズルズルと続けて。
本当に別れなければならない時に、この手を離す事が出来るんだろうか?