第66章 和
そりゃ、最初は同情だったかもしれない。
震えながら頑張る彼女を見て、オレがなんとか守ってやりたいと、そう感じたのも否定できない。
でも、そんなのはきっかけに過ぎない。
みわは、その後ふたりで重ねた時間も全て否定するのか。
ふたりで交わした言葉も、熱も。
そんなモンだったのか。
……こんな屈辱的な事はない。
「私も……涼太がちゃんと、私の事を見て好きになってくれたなら……もしそれが本当なら、なんて幸せな事だろうと思ってた。
でも、そんなのは幻想。私は、絶対に幸せにはなっちゃいけないんだって」
どうしたら、分かって貰えるんだ。
いや違う、こんな風になったのは、その母親の言葉とやらを思い出してからだ。
それまでは、オレとの積み重ねた時間を、みわも大切にしてくれていた。
オレの気持ちだって、疑った事もあるかもしれないけど、でも信じてくれていた。
それを、根こそぎ塗り替えられた。
こんな呪いみたいな言葉、どうしたらいいんだよ。
「そもそも、なんでお母さんはそんな事をみわに言ったんスか……」
「分からない、けど……お母さんが言う事に間違いはなかったの、今まで」
本当にそうだろうか。
"あの花"を娘に贈り続ける母親が?
自分の娘に"幸せになっちゃいけない"なんて言う母親が?
間違っている、それはハッキリ分かる。
以前お祖母さんから聞いたみわの過去の話は、そこまで深い部分には触れていなかった。
みわは母親に愛されずに育ったと、そこはハッキリと聞いたけれど。
もう、いっそのこと全部知りたい。
みわの過去を、彼女の記憶がなくなっている部分も全て知りたい。
……ふたりきりになれてラッキーだなんて思っていたくせに、こうなるとお祖母さんに早く帰って来て欲しいと思ってしまう。
「みわはオレの事、信じられない?」
「そんな事ない……信じ、たい……のに……涼太に、申し訳ない気持ちでいっぱいになるの……」
重なった手を、ポタポタと落ちる温かい雫が濡らしていく。
冷たい手と温かい涙、どちらが本当の彼女の気持ちなんだろう。