第66章 和
今日は何が何でも聞き出すつもりだった。
もしみわが渋ったら、伝家の宝刀「誕生日だから」を使ってでも。
「……涼太には、これ以上隠しても仕方ないと思うから、言うね」
「そうして貰えると助かるっス」
「バカにしないで、聞いて貰える?」
「モチロン」
一体どんな理由があると言うのか。
「……どこから言えばいいんだろう……」
みわは机の上で指を絡めながら、迷った様子で言うのを躊躇っている。
思わず、その手を取った。
「あっ……」
「手、こうしててもいいっスか?」
その小さな手を自分の手の中に包むと、指先がひどく冷えているのが分かる。
相当緊張しているようだ。
「いいっスよ、まとまってなくていいから、少しずつで」
「うん……」
指先が少し震えている。
「お前は魔性だ。
お前を見ると、男は理性を失くして狂う。
お前は男を惹きつけて惑わせる……」
「……?」
突然の台詞めいたその発言に、恐らくオレの頭の上にハテナマークが飛んだように見えたんだろう、彼女が少し不安そうな顔になった。
「あ、いいんスごめん、続けて」
「……私が性的な被害にあったりするのも、全部、私が引き寄せてること、なんだって」
まるで、ひとつひとつの単語を噛み締めるように、自分に言い聞かせるように紡いでいく。
「そ、そんなバカな事あるわけないじゃないスか」
ちょっと待って。突然何言ってんスか?
それって、今まで遭ったツライ事が全部自分のせいだって言ってる?
それはダメだ。一番向かってはいけない方向。
「ううん……そう、なんだって」
「なんで? 誰かに言われたの?」
「思い出したの。私、お母さんに昔からそう教わって来たのに」
マクセサンは、オレにこんな事も言っていた。
『幼少期に親から刷り込まれた記憶というのは、根深く彫り込まれているものだ。
それは、宗教となんら変わりはない。周りの人間が"そんな事で"とすら思うようなことでも、自殺する程悩んだりするものなんだよ』
まさに、これは母親の呪縛のようなものか。