第66章 和
「え……ええええええええ!?」
台所に戻り、ようやく現実を受け止めたのか、みわが遅れて悲鳴を上げている。
なんか、あのまま食事の支度をして火傷でもしないか心配だ。
「みわ、オレも手伝うっスよ」
目が合うと、驚いた表情のまま固まったみわがロボットのように動き出す。
「エ、エット、オ風呂ニシマス? ゴ飯ニシマス? ソレトモ」
「みわ、その流れは多分イケナイやつっスよ」
「あわわわ……」
みわのひとりコントに、もう笑いが我慢できない。
「ぷっ、なんでそんなに緊張してんスか? いつも通りでいいじゃないスか」
「し、してないってば!」
「かえってイジめたくなるから、やめて?」
手を伸ばして柔らかい耳朶にそっと触れると、その熱さに少し驚く。
「ひゃあっ……」
ベッドで聞かせてくれるような甘い声とはまた違う声に、思わずまた笑ってしまった。
「ひ、ひどい! からかって!」
「ごめんごめん」
「もう、すぐ終わるからあっち座ってて!」
「ハイハイ」
可愛いからつい遊んでいたら、台所から追い出されてしまった。
「お、お待たせ」
言葉通り、みわはスープを持ってすぐにやってきた。
「冷めないうちに、召し上がれ」
「ん、いただきます」
「あ!」
「ん?」
「お、お誕生日おめでとう、涼太」
少し伏し目がちに照れながらそういう姿が可愛くて。
「……アリガト、みわ」
愛情たっぷりのご飯は、どこの一流シェフが作る料理よりも美味しくて、心に沁みた。
「……ホントに、ちゃんとプレゼントの準備もしていなくてごめんなさい」
食後のお茶を頂きながら、テレビもつけずに向かい合って座っている。
「いや、プレゼントは今貰ってるっスよ」
オレがふたりの時間をリクエストしたんだから、これ以上のプレゼントはないんスけど……。
「わ、私の部屋に行く?」
「ん? いや、どこに居てもふたりきりだから、ここでも構わないっスよ?」
「じゃあ、ケーキ食べる?」
「あるんスか? 嬉しいっスね」
「うん、持ってくるね」
そう言っていそいそと台所に消える。
どうやら、食事をしている内に動揺も少しは落ち着いたようだ。