第66章 和
思えば、その手には何泊か出来そうな旅行鞄が。
どうやら非常に計画的だったようだ。
見るからに慌てふためくみわ。
「ええ!? 聞いてないよ!? 今日は涼太が来るって言ったじゃない!」
「だから安心して家を空けるんじゃないの。みわひとりじゃ心配だからねえ」
「ちょっと、おばあちゃん……!」
「あら、もう時間。行ってくるわね」
そう言ってお祖母さんは不自由な足ながらも、足取り軽く出て行ってしまった。
その背を追って玄関まで行くと、お祖母さんはオレを待っていたようだ。
「あの、スイマセンなんか」
毎度毎度、ここまでお膳立てされて申し訳なさしかない。
「……あの子が何かウジウジ悩んでいるみたいで、ごめんなさいね」
「いえ、多分オレのせいだと思うんで」
「……貴方のせいじゃないとは思うのよ……あの子のあれは母親のせいで」
「え?」
「もー、おばあちゃんってば!!」
台所からパタパタとみわが駆けてくる。
「お説教は帰ってから聞くわ。お土産買ってくるからね」
杖をつきながらお祖母さんはウキウキと出掛けて行ってしまった。
「……ウソ……」
みわはもう顔面蒼白と言った具合に驚いている。
なんか、可哀想になってきた。
おまけに、そんなに見るからにショックを受けられるのは、オレもショックなんスけど……。
思いがけずみわとふたりきりでラッキーなんて思ってしまったのに。
「みわ、そんなに警戒しなくても、今日は取って食ったりしないっスよ」
ショックを緩和するためにそう言ったんだけど、ふたりきりの時の前科ばかりで、全く信憑性がないのは自覚している。
「そ、そういうんじゃないもん」
そう言って慌ててUターンしたみわは、走り出した途端片方のスリッパが脱げて飛んでいき、転びそうになっていた。
動揺しているのがミエミエである。
そしてその可愛い姿を見て胸が躍っているのだから、オレの理性も大概、豆腐以下だ。
だから、今日は一緒に居られればそれでいいんだって……。