第66章 和
ま、家に居るんだから服着替えてて当然だよな……。
どうにもみわの事となると、思考がおかしな方向へ飛んで行ってしまっていけない。
「涼太、着替えて来たんだね」
「ん? ああ、寮はすぐ近くだしね。荷物とかも置いて来たっスよ」
なんか、若干顔が赤いのは気のせい?
もしかしてみわも、同じ事考えてる?
「あの、先にご飯にするでしょ?」
「うん、いただくっス」
「あの……ごめんね、レストランとかじゃなくて」
そう言って案内されるのは、古い木の香りがする廊下を抜けた先の、いつもの居間。
小さなテーブルには、一所懸命作ってくれたのであろうお祝い用の食事たちが並んでいる。
それに、この匂い。
多分、オレの好きなオニオングラタンスープも作ってあるんだろう。
オレの好きなものばかりだ。
それだけでもう顔がユルんでユルんで仕方ない。
「嬉しいっスよ、どんなレストランより」
今度はハッキリ、みわの耳が赤くなっているのが後ろから見ても分かる。
ねえみわ、どう考えてもオレの事ダイスキっスよね?
なんで距離置きたいとか言うの?
「黄瀬さん、お誕生日おめでとう」
みわのお祖母さんと会うのも久しぶりだ。
どうやら、室内は杖を使わずとも歩けるらしい。
「あ、ありがとうございます」
「これ、気持ちだけだけど」
そう言ってお祖母さんはリボンのついた包みを取り出した。
「え、あ、スイマセン……オレ、手ぶらで来ちゃったのに」
「いやだ、今更ここに来るのに手土産なんて持って来たら、そっちの方が怒るわよ」
お祖母さんが笑うと、どことなくみわに似ているなと思う。
遺伝子ってすごいっスね。
「それじゃあ黄瀬さん、ごゆっくりね」
「……は?」
思えば、これからご飯だと言うのにお祖母さんは座る気配がない。
「え、おばあちゃんどこ行くの? 何か足りないものあったっけ」
台所から顔を出したみわも驚きの表情。
何も知らされていないようだ。
「あら、言ったじゃない。今晩からお友達と温泉旅行に行って来るって」