第66章 和
"一旦家に戻ります。帰る時連絡ください"
受信メッセージには、そう書いてあった。
最近は、増えてきた顔文字もまた影を潜めつつあって。
オレはクールダウンを終え、シャワーを浴びてからみわに返信をした。
"了解! オレももう帰れるっスよ!
みわんち行くね"
彼女には、今日のオレの誕生日プレゼントとして、2つリクエストしてあった。
1つ目は、みわの今日1日を欲しいという事。
2つ目は、ふたりきりになりたいという事。
下心があるとかではなく、この開いている距離をなんとか縮めたい。
それだけだ。
……お祖母さん家なら、暴走もしないでいられるだろう。うん。
黄瀬涼太、下心は決してないと誓うっス。
ファンの子たちにゴメンねと謝りつつ、ようやく辿り着いた目的地。
バレンタインの時に懲りてくれたかと思ったのが甘かった。
今年4月に、1年生が入学してきたではないか。
どこから仕入れてきた情報かは分からないが、皆あれだけオレの誕生日を把握しているというのがちょっとコワイ。
彼女たちの中にある『黄瀬涼太』という偶像にどうしてそこまで入れ込めるのかはやっぱり理解できないけれど、気持ちだけはありがたく頂いておくっス。
お祖母さん宅の昔ながらのチャイムを鳴らすと、家の中でドタッガタガタと大きな音がした。
……転んだ? 外まで聞こえる音って、相当の慌てようだけど。
『はぁい』
お祖母さんだ。
「あ、コンバンハ、黄瀬です」
『いらっしゃい。今開けるから待っていてね』
「ハイ」
『みわ、ほら黄瀬さん来ちゃったわよ、早くそれ』
そこでインターホンはプツリと切れた。
何か、中では戦争が起こっているらしい。
慌てふためく可愛らしい姿を想像して、笑いが止まらなくなってしまった。
パタパタと廊下を走る音。
姿が見えなくても、いつもの走っている姿が目に浮かぶ。
「い、いらっしゃい!」
ドアが開くと同時に、私服のみわが飛び出して来て一瞬反応が遅れてしまった。
最近は学校でしか会う事がなかったから、制服かジャージ姿ばかりだった。
さっきまでオレを追いかけてきた女の子たちには何も感じなかったのに、みわはたったこれだけの事で、オレをこんなにも乱す。
それが堪らなく嬉しい。