第66章 和
翌日、17時から業者が入るというので、16時半にはクールダウンが始まった。
マネージャー陣はその間に、全員で片付けに勤しむ。
……片付けという分野においては、今の私は本当に役に立たない。
衣類ひとつ上手く畳めないし、重い物は持てない。
仕方がないので、片付けは他のメンバーにお願いして、モップがけを始める事にした。
モップがけは、当たり前だけどずっと床を見ている必要はないし、かけている間にも結構自由がある。
片手で小走りになりながらモップをかけつつ、視線はクールダウン中の涼太に釘付けになってしまっていた。
タンクトップから覗く鎖骨は息を呑むほどにキレイで、露出された肩や首、汗に濡れた髪はもはや凶器の類だと思う。
見ているだけでこれだけドキドキさせられて、なんだか癪に障るというか。
体育館を取り巻くギャラリーの気持ちがイタイ程分かってしまうのだから、なんだか悲しい。
そういえば最近は、校内で嫌がらせをされる事が減ったな。
通りすがりに悪口を言われたりするのはもう慣れっこだけど。
「神崎先輩!」
スズさんの声がする。
彼女の声は、本当に華やかで可愛らしい声。
身長は低く、でもその低身長からは想像もできないほどの胸元の主張。
彼女に魅力を感じない男性なんているんだろうか。
「なあに?」
「神崎先輩、今日はもう上がる準備して下さい」
「へ? どうして?」
「今日は黄瀬先輩のお誕生日をお祝いするんですよね? たまには早めに上がって下さい。もう練習は終わってるんだし」
「え? え?」
突然こんな事を言うなんて、どうしたんだろう。
そうでなくても、最近のスズさんの態度には驚く事が多い。
「ほら、早く!」
辺りを見渡すと、他のマネージャー達もうんうんと頷いている。
ここまで背中を押されてしまっては、なんだか断り辛い。
申し訳ないけれど、先に上がらせて貰う事にした。
「スズさん、最近みわちゃんに対する態度、変わったね」
「キオ先輩」
「何か心境の変化でも?」
「……別に……ただ、わたしもあんな風に強くなりたいと、思っただけです」
「気付いて貰えて、良かったよ」