第66章 和
ラーメン屋の帰り道、駅までのほんの数分。
ここは駅前の裏路地を1本入っただけの場所だから、駅は目と鼻の先だ。
ここを乗り切れば、なんとか……!
そう思っていたのに、涼太は一緒に改札を通ってきた。
「あれ? どこかに行くの?」
「送るっスよ、家まで」
「いやいや! 悪いからいいよ!」
今まで、うまくいっていた時は毎日のように送って貰ってたのに、なんて調子の良い奴と思われるだろうか。
……でも相変わらず涼太は言い出したらきかなくて。
結局、家まで送って貰う事になってしまった。
6月は雨が降ってばかりだけれど、こういう梅雨の晴れ間の日は、なんとなく得した気になるのは私だけだろうか。
涼太との1年間、節目になるような日には雨が多かった気がする。
雨の気配、雨の匂い……実はそんなに嫌いじゃない……彼と出逢ってからは。
ひとり物思いに耽り、目立った会話もないまま、家に着いてしまった。
「あの、ごめんね送って貰っちゃって」
相変わらずスラリとした長身。
外見がきっかけで好きになったわけでは決してないのに、この人の美しさは見る者を皆魅了していく。
本当に、こんな特別なひとがこころから私の事を好きになってくれるわけがない。
少し考えれば分かる事なのに、1年間勘違いした私は、完全に涼太にハマってしまった。
おまけに、その勘違いは涼太まで巻き込んでいっている。
「……みわ、明日……オレの誕生日だって知ってた?」
今日1日ずっと頭の中を占めていた事を言われ、心臓が嫌な音を立てた。
「うん、勿論知ってる……よ」
でも、準備をすっかり忘れていたなんて言えませんが……!
「オレ、欲しいモノがあるんスけど、リクエストしてもいい?」
「あ、あるなら、うん」
リクエストがあるなら助かる。
欲しい物をあげられた方が、私だって嬉しいし。
明日、部活が終わってからすぐに買いに行けば間に合うだろう。
「何が欲しいの?」
「みわとの時間が……欲しいんス」
「え?」
「明日、部活が終わってからの時間をオレに頂戴」
真っ直ぐ、宝石のような瞳に見つめられ、少しも目を離す事ができない。
タイミングを見計らったように、リィリィリィ……と鳴く虫の声が耳に届いた。