第66章 和
向かい合ってラーメンを啜るというのはやっぱりなんだか恥ずかしくて、テーブル席もあるお店だったけど敢えてカウンターに並んで座った。
「みわ、何にする?」
「んー、野菜ラーメン!」
「じゃあオレこの白玉とんこつにしよっと」
………………。
き、気まずい。
今まで、ふたりきりの時って何話してたんだっけ。
バスケの話。
学校の話。
あ、テストの話?
ああ、もう頭が真っ白。
「さ、最近赤点ギリギリっていう事がなくなったね、涼太」
って、うわわわ……けなしてどうするの!
落ち着いて。テンパるとロクな事がない。
「そうでしょ? オレも頑張ってるんスよ」
思いつきで最低レベルの話題振りをしたのにも関わらず、返って来た声はとても明るくて。
なんだか救われる気持ちだ。
「じゃあもう個人授業、いらないね」
…………
だめだ、私はもう今日、黙っておいた方がいいかもしれない。
「そんな事言わないでよ。引き続き、お願いするっスよ?」
「……ハイ」
辛うじて涼太の受け答えで成り立っているこの会話。
付き合いたての頃よりもずっとヒドイ。
そんな最低の流れを、出来立てラーメンが遮ってくれた。
涼太が割り箸を割って渡してくれる。
「あ、ありがとう」
「ん」
左手に力が入れられなくて上手く使えないから、こういうちょっとした事が不便なんだ。
どうしよう。嬉しい。
この人といると、本当に心臓がうるさくて、騒がしくて落ち着かない。
暫く無言でラーメンを啜る音だけがふたりを包む。
「笠松センパイがさ」
「え、うん、先輩が?」
「夏休み、オフの日にセンパイんとこの練習見に来いって言ってたんスわ」
「へえ? 大学に?」
「まだ進路決めてないならみわと見に来いよって……」
「あ、私も?」
3年生の先輩……いやもう3年生じゃないんだ。
笠松先輩の代の先輩方は、私と涼太をセットで考えているような節があるから……
「IH終わったら、行く?」
「……うん、行こうかな」
夏が来る。
……でもその前に……
明日の……