第66章 和
はぁ……
女子更衣室内の自分のロッカーをパタンと閉め、思わずため息をついた。
去年の私の誕生日は……
結局色々な事件があって、ちゃんとお祝い出来なかったと言って、涼太が埋め合わせに素敵なレストランへ連れて行ってくれた。
その気持ちが嬉しかった。それだけで十分だった。
その後、深夜までベッドで…………
火が吹き出しそうになる顔をぶんぶんと振って、熱を逃がした。
どうしよう、誕生日もう明日なのに……
毎日を過ごすのに一所懸命になりすぎて、完全に失念していた。最悪だ。
慌てて今日何か買いに、と思っていたのに、涼太に一緒に帰ろうと誘われてしまって……。
あああああ、どうしよう……!!!
「明日、黄瀬先輩のお誕生日なんですよね、神崎先輩」
隣で着替えていたスズさんが楽しそうに話しかけてくる。
「お祝いは、何するんですか? 先輩」
「う……」
今まさにその事について悩んでいたわけであって。
「まさかまだ、準備してないんですか?!」
「…………」
ぐうの音も出ない。
「うわぁ……倦怠期のカップルじゃないんだから……」
最近は素直に指導を聞いてくれている彼女だったけど、流石にプライベートは今まで通り容赦ない。
「これから何か買いに行くんですか?」
「ううん……一緒に帰ろうって、誘われちゃって」
「絶体絶命じゃないですか」
「そうなの……」
「わたし、神崎先輩に遠慮してプレゼント用意しなかったのに。こんなんだったら、ちゃんと買えば良かったなあ」
スズさんはまだ涼太の事を諦めていないみたいだけど、物腰は随分と柔らかくなった。
「まあ、先輩。もうこうなったらカタチ無いもので勝負しかないですね」
「カタチの無いもの?」
「そうですよ。気持ちとカラダでお祝いを」
「ちょっ……スズさん!」
「そんなに照れる事ないじゃないですか。もうシてますよね? いいなぁ黄瀬先輩と……」
「も、妄想しないでってば!」
スズさんは私たちの今の状況を知らないから、そんな事が言えるんだ。
ラブラブのカップルじゃないんだから……!