第66章 和
5月は様々な事があった。
けれども、時間は待ってはくれない。
6月に入ればすぐにインターハイの予選が始まる。
海常は順調に勝ち上がり、神奈川県の決勝リーグは優勝。
危なげなく本戦出場を決めた。
本戦は例年、7月下旬から8月の頭までに行われる。
「神崎、テーピング頼めるか?」
「神崎先輩、補助しますので教えて頂けますか」
スズさんはあれから人が変わったように様々な事を覚え、働いてくれている。
まだまだテーピングやマッサージなどは見様見真似だけれど、それ以外の仕事に関しては問題なくこなしていた。
少しずつだけど、チームとして和が出来て完成形に近づいていっている、それがハッキリ分かるのが嬉しかった。
私たちに寄り道しているヒマなど、1秒もなかった。
それに、私が怪我のせいで十分に動けない分、キオちゃんやスズさんに色々と教えなければならないという事で、まとまった時間を取るのが困難になっていた。
練習後、マネージャー同士で話し合う事も多く、一緒に帰る事すらしていなくて。
それはつまり、涼太と先日の話し合いなんかもゆっくりできていない状況ということで……。
分かってる。
"距離を置きたい"というのなんて、問題を先延ばししているにすぎないって事。
私自身、距離を置いたからといって何か改善されるとは思ってもいないし、逃げているだけだ。
涼太の事でいっぱいいっぱいになって、分からなくなって、迷うのが嫌なだけ。
心を乱されるのが辛いだけ。ただの自分のワガママ。
真っ直ぐ向き合ってくれている彼に、失礼な事をしているというのはよく分かっていた。
そんな弱虫でズルイ私にも、平等に時間は流れていくものであって……
明日は6月18日。
……涼太の誕生日。
通常通り練習があるけれども、夕方から業者が入るとの事で、練習は17時までの予定となっていた。
こんな時期には珍しいオフの時間に、皆も浮き足立っている。
あの日以降ゆっくり話も出来ていないということは、つまりまだ私達は付き合っている状態なワケであって……。
ど、どうしよう。
何か、準備をしなくては。
でも、今の状況で? 何を?
「みわ、今日は一緒に帰ろう」
迷っていると、涼太に先手を取られてしまった。