第66章 和
突然のみわの発言に、動揺を隠しきれない。
唇が乾いていくのが分かる。
「距離を置くって……それって、別れたいって、事っスか?」
さっきまでのキスで潤っていた口の中は、もうカラカラだ。
言葉も途切れ途切れになり、なめらかに話せていない。
「……分からない、けど……」
そう言ったみわの目は、体育館で見せたような強く輝いたものとは正反対のものだった。
バスケに関してあんなに強さを見せていたみわが、オレとの事ではこんなに迷っている。
「黒子っちと付き合いたい?」
「そうじゃないの……今は、バスケ部の事だけ考えていたい」
「オレとの事は、余計な事?
それは距離を置いたら解決することなの?」
焦りが、口調を強くする。
やっぱり、遠い。
こんなに近くにいるみわが遠い。
「……うぅ……」
みわは、苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えてしまった。
「みわ、大丈夫!?」
「あ……頭が痛くて……」
怪我もしているし、今日は色々な事があって疲れているんだろう。
今この流れで話していても、話が良い方向に転がるとは思えない。
「オレ、今日は帰るから。体調がいい時に、ゆっくり話そう」
「……ごめんなさい……」
「だから、謝るのはオレの方っス。ごめんね」
ズルいのはオレだ。
わざと、この話をしないように仕向けてる。
罪悪感を隠すように柔らかい髪にふわりとキスを落としてから、みわの布団を敷いた。
「少し眠った方がいいっスよ。オレは勝手に帰るから気にしないで」
怠そうな身体を横にするのを手伝い、掛け布団をかけてやると、暫く目を閉じていたみわはすぅすぅと寝息を立て始めた。
今、彼女に寝るように勧めたのだって、時間を置いて考え直して貰うためだ。
……距離を置きたい、か……。
「せっかくここまで縮めた距離……置いてたまるかよ」
この手は絶対に離さない、そう決めた。
オレ、諦めは悪いんスよ。
再びその寝顔に顔を近づけ、今度は大好きな唇に軽く口づけをしてその場を去った。